二十年以上前のことだが、東海大落研OBで飲んでいると、春風亭昇太師匠が言った。
「今、うちの落研なんか、潰れそうなんだろう!お前、チョット見て来いよ!」
昔から、この手の現場仕事は、いつも私である。このパターンは四十年間変わっていない。
私は「しかたなく」いや!後輩たちの為に、四年生最後の高座「年忘れ落語会」を視察しに行った。学生のホール落語を観るのは十年ぶりぐらいだったと思う。
当然、何の期待もせず客席に腰を下ろした。落研なのだから細かいことは目をつぶって、どこか褒めるところを見つけて帰ろうと思っていた。
その時。高座に現れたのは二年生だった。「年忘れ落語会」は四年生追い出しの会。二年生が出演することは異例である。多分、部員が居なくて選ばれたのだろう?
そう思って見ていると、登場した頭下位亭豊粋(とうかいてい ほうすい)君の手の形を見て驚いた!
何と! 不自然に片方の手だけ曲がっている。これは、立川談志師匠がヒザに手を置く、あの形である。
「そんなところ、コピーしてどうする!」これは、ヘタクソの匂いがするぞ!!
豊粋君は「黄金の大黒」を始めた。すると、また、驚いた。手が談志師匠なのに、口調もネタも談志師匠ではなかった。
しかも、テンポが良く、仕草も綺麗。客にも良くウケている。はっきり言って学生としては満点である。彼は、二年生ながら実力で出演していた様だ。
次にフケた三年生が出て来た。頭下位亭窓蝶(そうちょう)という男だ。
チョット陰気な感じで「蜘蛛駕籠」に入ったが…。あれ? こいつ、上手いぞ!
それも、上手すぎる! すでにプロの二つ目みたいな落語なのだ。仕草も良く、踊りでもやっている様な手の動きをする。なんだ!こいつ!
潰れそうな筈のクラブが、いつの間にか復活していたのだ。はっきり言って、私の学生時代より、数段上手い。「褒める場所を見つける」どころか、私が落ち込んでしまった。
気を取り直して、次の演者だ!(もう、逆にヘタを望んでいる) 今度は四年生の女性・頭下位亭志乃(しの)さん。女性の部員は、過去の例からしてあまりウケる人は居ない。無理して「褒める場所を見つける」のに最適だ。
やったのは「茶の湯」(当人から指摘あり。本当は「品川心中」だったそうです)。女子学生には難しい噺では?と思って見ていると…。明るくて、声が大きく、好感が持てる。
客席から笑いも起こっていた。私の知っている女性部員とは違う生き生きとした高座だった。
「なんだ! こいつら! チャントしてるじゃね~か! 俺に小言の一つも言わせろ!」私はもはや落語「かんしゃく」のご主人の様な気持ちである。
主任(トリ)の四年生が出て来た。二代目・頭下位亭銀太(ぎんた)だった。彼は、学内でも人気があるらしく、客の拍手が力強く、登場で声がかかっていた。
しかも、やったのはオリジナルの新作。温泉で殺人事件が起こり探偵が解決するミステリーだ。
しかも、客がガンガン!と笑っている。
私は思った。「学生のみんな!もう、自由にやっていいよ!OBなんか気にせずに!」
もう少しヘタでないとOBは言うことが無く、ガッカリするという逆転現象である。
ちなみに、この時。最初に出て「黄金の大黒」やった豊粋君は、現在の春風亭柳若さん。後に「学生時代何で談志師匠の手をマネしてたの?」と聞いたら「えっ!そうでしたか?覚えてません!」と言っていた。あれは、無意識だったのだろうか? 今も謎のままである。
「蜘蛛駕籠」が上手すぎた窓蝶君は、落語協会のある師匠の弟子となり、しくじって破門になった。彼は、学生ながらプロについて三味線を習う程の芸事好き。チョットもったいない気もするが、破門では自業自得である。
「品川心中」をやった女性・志乃さんは、今、主婦をしながらアマチュア落語家として活躍しているそうだ。
そして、創作落語を披露した二代目・銀太君は、現在の古今亭今輔師匠である。
私は「大工調べ」の与太郎の様な気持ちだ。
「みんなこんなに、立派になって、どうもおめでとう!」
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