放送業界のお話と落研と私的な思い出(瞳尻・黒舟)

「嗚呼!青春の大根梁山泊~東海大学・僕と落研の物語」スピンオフ・エッセイ。放送関係。業界のエピソードと近所の出来事

國學院・落研先輩の元翁さん!

 昭和五十五年。私が東海大学落語研究部に入部した時。國學院大落研・四年生に三優亭右勝(さんゆうてい うかつ)という先輩がいた。これは、伝統の名前で落語の腕が確かな者しか継いでいない。

 

 この右勝さんは、今も若木家元翁(わかぎや がんおう)の名でアマとして高座に上がり続けている。学生時代は「渋谷三大学落語会」という共演会で東海大の切奴(きりど・現・昇太師匠)さんと共演ている。元翁さんは「唐茄子屋政談」切奴さんは主任で「寝床」だったと記憶している。

 

 先日、元翁さんからメールが届いた。「今年の、『元翁・彦柳の会』はコロナ渦の為、中止に致します」とのことだ(彦柳さんは青学・落研伝説のOB。元翁さんと同期)。

 この二人は、学生時代から現在まで毎年「二人会」を開いている素人落語の怪物だ。

 

 『元翁・彦柳の会』は毎年、浅草の木馬亭で開かれていた。アマチュアなので無料だが、会場は超満員の札止めとなる。

 会のゲストにコネでプロを呼ぶのが恒例で、過去に春風亭昇太柳家喬太郎春風亭柳好、といった師匠が出演したのを観たことがある。二人はポケットマネーでプロの出演料と三味線の師匠、太鼓の前座さんにギャラを出している。究極の道楽者なのだ。

 

 そして、驚くのは、この元翁・彦柳の二人が笑いをとることだ。

 

 昇太師匠がゲストに出た時の思い出がある。。客席に座ると前に座っていた大学生の男子二人の会話が聞こえて来た。

 

 「先輩は、落語観に行け!っていうけど、高くていけね~よな!」

 「そうなんだよ! こういうタダの会しかいけね~けど…素人だからヘタなんじゃねえ!」

 「でも、初めてのネタが分かるからいいんじゃねー?!」

 

 これは、明らかにどこかの大学落研の一年生。しかも、ダメ部員である。

 普通、まともの部員は食事を我慢してでも「プロの落語」を観に行くものだ。「週に一度が二度は観に行くのが、まともな落研なのだ」(私はダメな方で週一でした)。

 

 私は、このダメ落研二人に少し腹が立って来た。

 

 そこに登場した元翁さんは「球論」(きゅうろん)という落語「宗論」のパロディーを演じた。これは、かつて桂米助師匠が作った落語で、オヤジが巨人ファンなのに、息子が阪神ファンになって、親子喧嘩になるというものだ。

 

 パワーあふれる高座に、会場は大爆笑の渦となった。波のように笑いが押し寄せる、ビッグウェーブである。それを観た前の落研が言った。

 

 「まあまあ、面白くない?」

 「結構、観れるね! タダならもうけものじゃねえ?」

 「この「球論」って古典?」

 「そうじゃないの!」

 

 言動も知識も最低のレベルである。

 

 大爆笑の「球論」の後、ゲストの春風亭昇太師匠の登場である。前のダメ落研は言った。

 「次の人は期待できなくない?」

 「素人で二人面白いってなくねえ! ダメだよきっと!」

 

私「おおおおおお~!こいつら、春風亭昇太師匠を知らないのか!?いったいどこの大学だ? 東海大でないことを祈るばかりだ。

 

 昇太師匠は枕で散々笑わせた後で「壺算」に入った。

 私(心の声)「えっ! この人、本気だ!」

 

 「壺算」は昇太師匠が「芸術祭大賞」を受賞した時のネタの一つ。大阪の超メジャー噺家・B師匠が絶賛した一席である。

 

 アマチュアの元翁さんの大爆笑を観て、昇太さんは燃えたのだと思う。

 「この、人…。プロのプライドをかけて、素人を叩きつぶす気だ!」

 

 この「壺算」はビッグウェーブの上に、さらに波が重なる壊滅的な面白さだった。もう、誰が上がっても、これよりウケることはないだろう。

 

 すると、前のダメ落研が言った。

 「この人達、面白いんじゃね~の?」

 「けっこうやるね!」

 「来年もこようか!ダダだし!」 

 

 私は心の中で叫んだ!「ダメだこりゃ! 次行ってみよう~!」

 

 十年以上前のことだが、あのダメ落研の一年生は四年間クラブを続けられたのだろうか? 案外、噺家になっていたりして…。

 

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