放送業界のお話と落研と私的な思い出(瞳尻・黒舟)

「嗚呼!青春の大根梁山泊~東海大学・僕と落研の物語」スピンオフ・エッセイ。放送関係。業界のエピソードと近所の出来事

学生落語の大会と東海大落研

 数年前。下北沢の「しもきたドーン」というライブハウスで行われる「学生落語の大会」で審査員を頼まれた。

 この会場は、私が名古屋でお世話になったテレビ局の元プロデューサーとフォークダンスDE成子坂の桶田敬太郎君が、手造りで作った小屋だ。

 

 演劇やお笑いライブの小屋だが、私のプロデュースで噺家の落語会も行っていた。予算が無いこともあって、二つ目の若手有望株にお願いした。

 独演会を開いたのは、桂宮治柳家わさび(当時・二つ目)、柳亭小痴楽(当時・二つ目)、春風亭昇也、春風亭昇々、瀧川鯉八(当時・二つ目)、桂三四郎一龍斎貞鏡林家つる子&母の親子会、桂竹千代、三遊亭わん丈、春風亭㐂いち。

 

 真打では、無理にお願いして、林家彦いち師匠(私が「ちりとてちん」を作ってレポートする「実験検証落語の会」)に出て頂いた。

 

 そして、今、毎月、鈴々舎馬るこ師匠が「まるらくご爆裂ド~ン」という、ネタおろし独演会を開催している(有料ネット視聴も可)。

 

 この会場で行われた「関東の学生落語の大会」を観ると、大学落研のレベルの高さに驚かされた。しかし、私が落研だった四十年前とは勢力図が大きく変わっていた。

 

 私の印象に残ったのは、一橋大、埼玉大、東大、といった国立。東大は昔からの老舗だが、一橋、埼玉大は初めて遭遇した落研だった。聞くと一橋は出来て間もないクラブ。埼玉大はOBにピン芸人・「♪東京タワ~に登っタワ~」でお馴染みの、寒空はだかがいるという。

 40年前。毎年、プロ級の達人を輩出していた早稲田の「寄席演芸研究会」の名がないのは意外だった。さらに、学習院明治学院、の老舗の名も無かった。

 聞くと、早稲田の寄席研は今はお笑いサークルと化してして、落語をやる者は居ないそうだ。

 

 他には、東京経済大、国際基督教大、法政大、青山学院、明治大、國學院大二松学舎大、等が目立っていた。

 

 三回程開催したと思うが、東海大の出場者は居なかった。私としては残念な話だ。出場者の選定は岐阜で全国大会を開いている方が担当していた。東海大はこの大会で活躍できなかったのだろうか?

 

 二年程前。またも、有力なOB・昇太師匠が言った。「うちの落研を見て来いよ!」。

 十五年ぶりぐらいだろうか? 私は東海大の文化祭へと足を運んだ。下北の大会に出ていなかったこともあり、何の期待もせず教室へと向かった。

 

 しかし、どこで落語会をやっているか分からない。今は外での呼び込みが禁止になっていた。目印になるハッピを着た1、2年生が居ないのだ。ポスターを頼りに会場へと入ると、まだ、開演前らしい。

 

 私が入ろうとすると、女子部員が私を制した「チョット、オジサン! まだ入っちゃダメです。外に出て!」。

 「すいません。OBなんですけど…」

 「えっ! そうなの!」

 チョット可愛いので、オジサンは許してしまった。男子だったら説教である。

 

 私の感覚だと、開演前の打ち合わせ中に入ろうとする人は、十中八九OBだ。多分、最近は知らないOBが訪ねることがないのだろう。命令で私が視察に来ているぐらいだから、当然である。

 

 私は黒板に二十期・三代目・馬好と書き記した。OBが来ると委員長がその方の名前を書くのが決まりなのだが、私の顔を知らないので自分で書くことにしたのだ。

 四年生の女の子がOB名簿を取り出して、急いで確認していた。みんな慌てている。

 

 学祭の寄席が始まると、テープの出囃子が流れた。昔は三味線は学生が弾いていたのだが、今は弾ける者が居ないそうだ。私は弾けなかったから偉そうなことは言えないが、切奴さん(昇太師匠)はじめ先輩達は各代に三味線担当がいて、有名な師匠の出囃子をリクエストすると、何でも弾いてくれた。当時は当たり前だと思っていたのだが、あれは凄いことだったのだ。

 寄席文字も書道に近い字体で、適当である。

 

 私は「褒める場所を探そう」と思った。落語は期待できないと思ったからだ。

 

 しかし、登場した二年生の女の子がいきなり衝撃だった。表情が豊かで仕草が的確で明るくて、上手い! 「なんだ!こいつ! プロみたいじゃね~か!」と言ったレベルなのだ。頭下位紫織(とうかいてい しおり)と名乗っていた。私は、うちの女子部員で、こんなに上手い娘を見たことが無い。はっきり言って化け物だ!「宿屋の富」を表情タップリで演じて、笑いを取っていた。

 

 続いて、やはり二年生・頭下位亭文世(とうかいてい あやせ)が登場した。「オジサン! 入らないで!」と言った彼女である。

 彼女は、いきなり、ニッコリと笑い感じが良い。小気味よく、これがまた…上手い!

 何だ!こいつら…。何をやったかは忘れました。ごめんなさい!

 

 主任(トリ)は二代目・頭下位亭黒塔(とうかいてい こくとう)と名乗る三年生の女の子。素人には難しい噺「くしゃみ講釈」を立て板に水で語っていた。会場に爆笑が起こっている。驚く程の本格派で入れ事がない。それなのに笑いが起るのだ。もし、今、私が一年生だったら憧れの先輩になるだろう。彼女は委員長(部長)だという。

 

 実はこの日。OBの二つ目・落語家がゲスト出演していたのだが、笑いの量は女子学生と同じぐらいだった。

 

 ちなみに、男子は…。とても、文章には書けない状態だった。

 

 この時の二年生は、今、四年生の筈だ。文世さんは今年、広瀬和生さんと鈴々舎馬るこ師匠が開催している学生落語の全国大会で決勝まで勝ち残っていた。

 

 東海落研は、今、女子主導の時代に突入したようだ。OBの皆さん、女子大生に「オジサン! 出て行って!」と言われるのでお気お付け下さい。

 

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