四十年程前。東海大落研の学生時代の私は、柳家小三治師匠のファンだった。三年先輩の頭下位亭平頭(とうかいてい へいず)さんが、小三治師匠を好きだった影響もあって、上野本牧亭で開かれていた「扇橋・小三治・文朝・三人噺」を観に行くのが好きだった。
ある時。明日「三人噺」と言う日。つまり、会の前日に末広亭夜席へと足を運んだ。小三治師匠が主任だったからだ。
すると、登場した小三治師匠は「死神」を始めた。「あれ?このネタ?小三治師匠で聴くの?初めてだ!」と思った私だが、その時は深くは考えず、すぐに話に引き込まれて、感動して寄席を後にした。
そして、余韻の残るまま翌日。上野・本牧亭の「三人噺」を観ていると…。小三治師匠が「死神」を始めた。
「三人噺」は確かネタおろしの会だ(もし違っていたらごめんなさい。私の勘違いです)。つまり、師匠は昨日、フライングで末広亭でネタを試したのではないだろうか?もしそうなら、本当のネタおろしを偶然観たことになる。
前日に、つい、試したくなるのは、この会「三人噺」が、いかに気合の入った会かが分かる。当時、中堅どころで突出した存在の三人が「鎬を削る」真剣勝負の会だったからだ。
これはプロ野球で言うと、日本シリーズ。高校野球なら甲子園の様に緊迫した落語会だ。客席にも(畳敷きの寄席だが)その気合がひしひしと伝わっていた。
私はうっかり、咳払いも出来ない空気に包まれ、高座を見つめていた。
若き日の貴重な落語体験である。
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