朝のラジオの仕事を終え自宅で仮眠。起きると三遊亭円丈師匠の訃報を知る。ご冥福をお祈りいたします。
私が東海大落研に入部した昭和55年。円丈師匠は新作落語の新星として、輝きを放っていた(まだ三十代か…)。
落語初心者の私は、古典至上主義で小さん、馬生、談志、志ん朝、円楽、小三治、と言った各師匠の高座を観ていたが…。
当時、三年生の先輩、切奴(あの人)さんは、我々一年生に「古典も良いけど、円丈師匠を観に行け!」と、ことあるごとに熱弁していた。
当時、渋谷ジャンジャンで開かれていた「実験落語会」など、円丈師匠を追いかけていたそうだ。
その熱の凄さに、私も観に行くことにした(寄席の短い高座は何回か観ていたが)。最初に行ったのは「円丈・文珍・二人会」。場所は…?多分…新宿紀伊国屋ホールだったと思う。
その時。私は円丈師匠を観に行ったのに、文珍師匠のシンセサイザーを演奏する創作落語に衝撃を受けてしまった。
翌日。私が切奴さんに「文珍師匠のシンセサイザーを使う落語が凄かったです。ロケットの発射音とか、シンセで自分で弾くんですよ」と言ってしまった。
切奴さんは「円丈師匠は?」「あっ、良かったです。でも、シンセサイザーが…」
「バカ野郎!今の大阪の創作落語は円丈師匠に刺激されて始めたんだ!」
私は純粋に感動を伝えたのだが、怒られてしまった。私はまだ、19才なので判断できなかったが、これは、阪神ファンに巨人の話をする様なものだ。怒られて当たり前である。
その年。お正月に帰省すると…。私の田舎・静岡県磐田市の隣、浜松の映画館で「円丈独演会」があるという。私は早速、チケットを買った。
当時、地方では映画館のスクリーンの前に高座を作ってやる落語会があった。
その日は「人肉鬼」(すいません、正式名は忘れました)の噺を聞いた。その時のマクラで「ウンチの大人と子供の小噺」をやっていた。舞台はボットン便所の肥甕の中。大人のウンチがくつろいでいると、上から子供のウンチが落ちて来る。すると大人のウンチは自分の体に乗った子供のウンチに「汚ねーな!」と叫ぶ!
シュールだ!それまでの落語には無かった発想である。この師匠の凄さが分かったような気がした。
当時の雑誌「落語界」を見ると、上方落語の新作グループ「創作落語現在派宣言!」の記事が載せられていた(部費で定期購読していた)。
やはり、上方落語の各師匠が円丈師匠の新作落語を観て「黒船が来たような衝撃」をウケて「創作落語に目覚めた」と書かれていた。
メンバーは、桂三枝(現・文枝)、月亭八方、笑福亭福笑、桂文珍、桂べかこ(現・南光)、笑福亭仁智、等々の各師匠方。
このメンバーが新宿紀伊国屋ホールで公演するという。私は東京での第二回、第三回の公演を観に行った。
そこで、三枝師匠の「ゴルフ夜明け前」を観て衝撃を受けた。仕草だけで会場全体が崩れ落ちるような大爆笑を観たからだ。「落語って言葉が無いところでも、こんなにウケるんだ!」その日は興奮して眠れなかった。
そして、今度は切奴さんに報告するのはやめた。少し、大人になっていた。
この時の「ゴルフ夜明け前」で文枝師匠は「芸術祭大賞」を受賞。多分、創作落語での受賞は史上初だったのではないだろうか?
その勢いのまま映画化までされた作品である。ちなみに、文枝師匠のお弟子さんの桂三四郎さんが落語家になったキッカケは「ゴルフ夜明け前」だったと聞いたことがある。
改めて、新宿末広亭で円丈師匠の高座を観た。この頃、寄席ではよく「悲しみは埼玉に向けて」をやっていた。
私は大声で笑っていた。上方落語を通して、そこに影響を与えた円丈師匠の凄さが分かってきたのだ。
三年の時だと思うが…。池袋で「円丈最初で最後の古典の会」が開かれた。演目は「突き落とし」と「茶の湯」。ゲストは米助師匠で「平林」を演じていた。
当時、円丈師匠は古典はやらない時期だったので、異例の落語会である。私は切奴さんから「円丈師匠の「茶の湯」は凄い!」と聞いていたので、ついに、巡り合えたという気持ちで一杯だった。そして、大きく感動した。「突き落とし」が大爆笑!しかも、ほとんどネタは変えていない。「茶の湯」も同様に変えていないのに大爆笑だった。
古典の技術の上に新作があることが分かった瞬間だ!
素晴らしい体験のキッカケを作って下さった、円丈師匠に合掌である。
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