放送業界のお話と落研と私的な思い出

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四年生の平頭さん!心に刺さる!

 40年前(執筆・2020年)。東海大学落語研究部の四年生に頭下位亭平頭(とうかいてい へいず)さんと言う先輩がいた。

 

 この人は「俺が、俺が」と前に出るタイプではなく、いつも、一歩引いたところから冷静に現状を見ている人だった。

 何故かいつも、首を少しかしげて歩く。骨でも曲がっているのだろうか? この首のかしげが「小さいお辞儀」にも見えるので先輩に失礼が無い。

 

 初めて、平頭さんを部室で見た時は、ドラマの中の風来坊が持つようなズタ袋を肩からかけていた。確か「明日のジョー」の矢吹ジョーが下げていたサンドバッグみたいな入れ物だ。

 勉強熱心でない落研がこんなに大きな荷物を持つ訳がない。いったい何が入っていたのだろう? 今も謎である(ノートパソコンも無い時代)。着物だったのかも知れないが…。

 

 平頭さんは、私に生まれて初めて、中野の居酒屋で「チューハイ」を飲ませてくれた人だ(noteの電子書籍「嗚呼!青春の大根梁山泊!~東海大学・僕と落研の物語~」に記している。)。

 

 この平頭さんは、古典に忠実な美しい落語を演じていた。私の印象に残っているのは「禁酒番屋」「味噌蔵」「野晒し」「幾代餅」「小言念仏」などだ。学生落語で「「小言念仏」がウケた人は、この先輩しか観たことがなかった。

 一年後輩の切奴さんの学年があまりに目立っていたので、地味な存在だったが、我々後輩は平頭さんが次はどんなネタをやるのか楽しみだった。

 

 そして、平頭さんは指導するのが上手かった。

 

 私の様な基本技術の無い一年生は、古典落語がまったくウケない。そこで、切奴(きりど・現・昇太師匠)さんや実志(じっし・現・TV演出家)さんが、新しいギャグを入れて見せてくれるのだが「先輩がやると面白い」のに「私がやるとつまらない」。天才肌の先輩はダメ部員の参考にはならないのだ。

 

 これは、野球でいうと「一本足打法」や「振り子打法」の様なものだ。本人の技量の上になりたっているものなのだ。

 私はいつも、教えてもらった後。「元に戻せ! お前には無理だ!」と言われていた。

 

 そんな、ある日。私の「つまらなさ」を見かねたのだろう。夏合宿で平頭さんが手招きした。

 「黒舟! 見てやるから、やってみなよ!」

 「頭下位亭黒舟です。「粗忽長屋」やらさせて頂きます」

 

 先輩に言われれば、断る権利はない。私は覚えたまま、なんの面白みも無く一席演じた。すると、平頭さんは言った。

 「上手いよ! だけど、ウケないよ! 粗忽長屋は、粗忽もののなかで素人がやると一番うけない難しい噺なんだよ! だから、気にするな! 次の噺で素人にもやりやすいのを選ぶといいよ!」

 

 私は愕然とした。覚えたばかりだったし、このネタで三年生の春にある「渋谷三大学落語会」に出ようと思っていたからだ。

 すると、平頭さんが言った。

 「最後の、「こんなことなら、もっと、いいもん食っとけば良かった」ってところ、「こんなことなら、もっと、いいもん食っとけば良かった。吉野家なんか行くんじゃなかった!」って言ってみたら。

 

 その後。老人ホームや学園祭で「粗忽長屋」をやったが、まったくウケなかった。だだ、一か所、ザワッとしたのは「吉野家なんか行くんじゃなかった」の部分だった(ちなみに「吉野家」は旨いです。学生は週に一度は食べていました。馴染みのある店名を入れると、反応があると言う意味のギャグ)。

 

 「素人にもやりやすい噺って何だ?」私は以前、実志さんに聞いた言葉を思い出した。「反対車」はバカオモだよ! 俺、二年の時、やろうか迷ったんだよ! やらなかったけどな!」

 

 知識もなく素直な私は、すぐ「反対車」を憶えることにした。すると、平頭さんが手招きした。

 「黒舟! 見てやるから、やってみなよ!」

 「頭下位亭黒舟です。「反対車」やらさせて頂きます」

 

 平頭さんが言った。

 「これなら、ヘタでも勢いでごまかせるな! ひょっとするとバカウケするぞ!あと、ギャグ入れてやる! 土管を飛び越せ! 一回目はウケないから、もう一度飛び越して、ウケないからもう一回やった!と言え。円鏡さんがやってるギャグだ!」

 それだけ言うと、去って行った。

 

 この「反対車」は、自分では良く分からないままやっていたが、確かに笑いが起るネタだ。オリジナルのクスグリを沢山いれたのも良かったのかもしれない。円鏡師匠のクスグリも確かに二度やると笑いが来ていた。

 そして、私の戦略は「長くやるとヘタがバレるので、短く爆発的にやる」ことだった。平頭さんのアドバイス「ヘタでも勢いでごまかせる」を実践したのだ。

 

 私はこのネタで「渋谷三大学落語会」に出演した。お陰様で笑いが起り、一矢報いた高座だった。

 

 平頭さんの判断は間違っていなかった。この年の秋。「全日本学生落語名人位決定戦」で決勝まで残った時のネタも「反対車」である。

 

 後に分かったのだが…。この時の、一次予選には、あの、今を時めく柳☓〇〇〇師匠、立☓〇〇〇師匠、が参加して予選落ちしているそうだ。

 とある番組で二人がそのことを話していたのを見た時。私は驚いて「身が震えた」(実は、向こうは一年生・私は三年生。勝ってもあまり威張れない)。

 

 とはいえ、平頭さんのお陰で、私は一生の自慢の種をもらった。

 

 平頭さんは、群馬県で普通のサラリーマンをしている。

 

 

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