放送業界のお話と落研と私的な思い出(瞳尻・黒舟)

「嗚呼!青春の大根梁山泊~東海大学・僕と落研の物語」スピンオフ・エッセイ。放送関係。業界のエピソードと近所の出来事

大学で観た!山下久美子は輝いていた!

 昭和55年。私が落研1年の時。東海大学では文化祭以外にも有名アーティストの無料コンサートが企画されていた。

 新入生歓迎の意味だと思うが、二号館の大教室でプロミュージシャンのライブが無料で開かれていたのだ。

 

 1年の春。まだ、新人の山下久美子さんが来た。2年先輩の実志(じっし)さんと飛鳥(あすか・元・マー坊)さんが私に言った。

 「コンサート観に行くぞ! お前も来い!」

 見るとパワフルで歌は上手いし、バラードは綺麗だし、最高に楽しいコンサートだった。

 

 そして、最後の曲は新曲の「恋のミッドナイトDJ」だった。会場が大きく盛り上がった。「山下久美子って良いな~!」3人共同じ気持ちだった。これが無料で観られるなんて、流石は学費の高い東海大である。

 

 3人で帰り、小田急相模原駅前を歩いていると、実志さんが言った。

 「黒舟! 金持ってるか?」

 「私は一万ぐらいはあります」

 「お前、山下久美子のLP買えよ!」

 「えっ! 僕、ステレオ持ってませんよ!」

 「俺が、テープにダビングしてやるから…」

 もの凄い理不尽な理由である。

 

 素直な私は、言われるままLPを買って自分用のテープも買った。三人で実志さんのアパートでアルバムを聞いた。私は「バスルームから愛を込めて」が印象に残った。

 実志「山下久美子は、売れるな!」

 飛鳥「(栃木訛りで)いっちゃあ、なんだけど、俺達目利きだからな! 黒舟! 絶対売れるぜ!」

私「…そうかも知れないですね!」

 

 数か月後。山下久美子さんは全国区の大スターとなっていた。先輩達も目利きだが、この時、大学にブッキングした担当者は本当に目利きだと思った。

 

 一年の文化祭の時。私が学内寄席の呼び込みをしていると、お客さんは口々に「野外音楽堂はどこ?」と聞いてくる。

 私「寄席やってるんですけど…」

  「それは、いいから、野外音楽堂は?」

  「この先、下った左です」

  「ありがとう!」

 何度同じ会話をしたろうか。私はもう嫌気がさしていた。落研の寄席には人が来ないのに、みんな野外音楽堂へと向かうのだ。

 

 野外音楽堂では、この日、マスコミで大人気のジューシーフルーツの無料コンサートが開かれるのだ。当時、ジューシーフルーツはテクノの可愛い曲で「ジェニーはご機嫌斜め」や「恋のベンチシート」が大ヒットしていた。

 聞くと、目利きの担当者がまだ売れないうちに文化祭にブッキングしていたそうだ(後に本人から聞いたが、ブッキングしたのは文化部連合の先輩「かっぺい」さん(クラブは忘れた。長野で普通のサラリーマンになった)だったそうだ。

 

 学内は人で溢れてパニックになった。私の呼び込みはまったく無視である。腹が立った我々一年は「何がジューシーフルーツだ! こっちの方が面白いんだぞ! この野郎~!」と心で叫びながら、過酷な呼び込みを続けていた。

 どう呼び込んでも「野外音楽堂はどこですか?」の質問ばかりだった。

 

 最後は道案内が面倒になって「野外音楽堂は左です」いつの間にかコンサートスタッフになっていた。

 

 「クソ~! ジューシーフルーツなんか、もう、テレビに出ても見ないからな!」

 私の下宿にテレビは無かったが…。

 

 そのうち、野外音楽堂から演奏が聞こえて来た「ジェニーはご機嫌斜め」だ。

 「ちきしょう! 始まりやがった!」大音量なので落研の落語の最中も聞こえてくる。この音の中でも、エース級の先輩達は笑いを取っていた。ここだけは、誇らしかったが、屈辱にまみれた結末だ。

 

 帰りに、同期の切笑(せっしょう)が言った。

 「ちくしょう~! ジューシーフルーツ…観たかったな~!」

私「実は、俺も!」

 

 寄席に客が入らなかった落語低迷期。音楽界が羨ましかった我々である。

 落語ブームに火がついた「タイガー&ドラゴン」まで、まだ、25年も前の話である。

 

 

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