細々と放送作家を続ける私は、以前も書いたように、「自分で動く」より「誰かの導き」で仕事が入る。
二十年程前のことだが、東海大落研二年先輩の頭下位亭実志(とうかいてい じっし・現・ディレクター山崎)さんから電話があった。
「放送作家のインタビューしたい人がいるから、何か話してやってよ」
「分かりました!」
内容は良く分からないが、近所の喫茶店でライターの女性と待ち合わせて、取材となった。
聞くと「放送作家になる為のノウハウ本」を書いているので、話を聞きたいというのだ。質問されるがままに、二時間ほど喋りまくると、女性ライターは嬉しそうに帰って行った。
数日後。編集の責任者から電話があり、「一度会いたい」と言う。
追加取材かと思い出版社を訪ねると…。
「小林さん この本の監修やってくれませんか?」
「えっ! 監修?!」
私は、単なる取材で「謝礼」も貰えるか怪しいと思っていた。女性記者が色々聞くので熱心に現場の様子を答えただけだ(男だったらあんなに話はしない)。
しかし、放送作家のノウハウ本の監修は、私より、もっと有名な作家の方が良い。私が担当者なら絶対私等選ばないからだ。
私は素直に言った。
「監修となると、もっと有名な人がいいんじゃないですか? 高田文夫先生とか秋元康さんとか…。その方が本も売れますよ!」
「いえ! 良いんです! 小林さんにお願いします」
そこまで言われたら断る理由は無い。どうやら女性記者に誠意をもって接したのが良かった様だ。ありがたく引き受けることにした。
本のタイトルは「放送作家に〇〇〇〇〇☓☓問題100」です。
「今、女性ライターが90問作りました。最後に「応用問題・実践編」を10問作っ下さい」ここは、本当に放送の現場で起こる問題にして下さい」
最初の90問を見て私は驚いた。私の答えられない問題が多かったからだ。
問「放送局が放送業務を行うための免許を交付する権限を持つのは1~5のどれか?」
①「通商産業省」➁「宮内庁」➂「郵政省」④「科学技術庁」➄「最高裁判所」
私は思った! そんなの知るか? 答えは➂「郵政省」とある。確かに放送に関する問題だが、監修の私が勉強になってしまう。この手の問題がほとんどを占めていた。
もう出版日が近いので直す時間がなく、直すとなると私が全部やらなくてはいけない。スケジュール的に無理と判断した私は「最後の10問・実践問題」だけに集中することにした。
91問は「急に始まることになった、深夜の新番組(バラエティー)の司会者を選ぶなら次のうちの誰?」といったものにした。
候補には大物スターの名前と、若手の名前が混ざっている。
この問題の正解は「新人タレントの名」である。「急に始まる」「深夜」と考えると、予算は無い。しかも、大物は急にブッキングできない。はっきり言って「ひっかけ問題」である。
某有名プロデューサーが若手の作家に怒鳴ったことがある。
「お前ら、企画書にタモリとかSМAPと書いてくるんじゃね~よ! 誰がブッキングするんだよ! どこに予算があるんだよ! タレントありきの企画は企画じゃねぇ! まず、面白いこと考えてこい!」
私はこの手の「現場で本当にあった」問題だけで10問用意した。考えているうちに面白くなってきた。仕事ということを忘れる程だった。
すると、この問題を見た編集長が「面白い! こういうのが欲しかったんです」と、のってくれた。
役目を終えた私は「あとがき・書いていいですか?」と聞いてみた。すると、「いいですけど…どんなこと書きます?」と聞かれて「この本を買ったあなたは、放送作家に向いていないかも? 私の知る有能な作家でノウハウ本を見て作家になった人はいない。本当に目指すなら、自分で面白いことを見つけて欲しい」的なことを提案した。
実践に関係ない問題が多いことへのうしろめたさがあったからだ。
しかし、この「あとがき」は却下されてしまった。
とは言え楽しい仕事だったので、私としては満足だった。
数日後。出版と共に初版刷り分の印税が支払われてきた。作業量からすると放送台本の10倍程だったと思う。
何気ない先輩の電話のお陰で得してしまった。
電話をしてくれた実志さんにお礼がてら、本を渡すと…
「えっ! お前、監修なの? 取材ウケるだけかと思ったのに! だったら、もっと有名な作家紹介するんだった!」
これは、正直なコメントである。私でもそう思う。
この本は発売日に、新宿紀伊国屋書店に平積みされていた。それを見た私は思わず写真を撮ってしまった。
売れ行きは大したことがなかったが、絶版になった頃。
ネットオークションで、この本が1万円を超えているのを見た。ものの価値とは分からないものである。初版が少ない方が高くなる時があるのだ。
現在は500円しないで買えると思うが…。それはご愛敬だ。
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