放送業界のお話と落研と私的な思い出(瞳尻・黒舟)

放送関係。業界のエピソードと近所の出来事

入船亭扇辰師匠と、國學院・びん太の粋!

 入船亭扇辰さんが真打に成った時の出来事。

 扇辰さんは國學院大學落研のOBで、東海大落研OBの私より二つ下の学年のシベリ家翌柳(しべりや よくりゅう)君だった。

 この名前を付けたのは國學院五年生だった、往復亭びん太(おうふくてい びんた)さんだ。

 

 びん太さんは良い人なのだが、個性が強すぎてシャレがキツイ。本人はシャレのつもりだが、周りには嫌がられると言う可哀そうな先輩だった(仲の良いのは私ぐらいだ。私は何故かこのタイプの人に可愛がられる)。

 

 扇辰さんの真打が決まった時。びん太さんの鼻息は荒くなった。國學院落研初の真打誕生である(三遊亭遊吉師匠は落研でなく落会出身・別のクラブである)。びん太さんが私に言った。

 「俺が羽織を作らない訳にはいかないだろう! 黒舟! お前も一緒にこい!」

 「私、大学違いますよ!」

 「いいんだよ! お前が三年の時の一年じゃないか、来い! 金は全部俺が払う!」

 何の答えにもなっていないが、私しか言うことを聞く後輩が居なかったのだろう。

 

 びん太さんは扇辰さんを呼び出して、呉服屋へと向かった。

 扇辰さんは、師匠の扇橋さんが着物を作っている上野のお店を希望。いつか、ここで着物を作りたいと思っていた憧れの店だという。

 

 お店は雑居ビルの中にあり、私がイメージする呉服屋さんではなかったが、聞くと歌舞伎役者も常連の高級店だ。

 

 扇辰さんは言った。

 「先輩! 今日はありがとうございます。私、真打に備えて一揃え「羽二重」を作りたいので、差額は私が出します」

 ここで、びん太さん一瞬うろたえた。羽織だけのつもりだったので、三十万円程持参していたが、「差額を本人が出す」のは、びん太さんの気持ちが許さないのだ。

 

 びん太「チョット、待ってね! 裏地とか選んでおいて!」

 

 びん太さんは一度外に出ると、百万円ばかりおろして帰って来た。そして、店主に言った。

 「全部でいくらですか?」

 

 いくらだったかは覚えていないが、相当な額になっていた。びん太さんは公務員である。この出費は相当無理をしたと思われる。

 

 店を出た後、私が「先輩、全部は多過ぎたんじゃないですか?」と言うと…。

 「バカ野郎! 江戸っ子がいまさら羽織だけにできるか!」

 

 何とも粋な先輩であるが、びん太さんは淡路島出身。江戸っ子ではない。

 

 扇辰さんが真打になり。一軒家を建てた頃。びん太さんから電話があった。

 「黒舟! 淡路島から高級河豚を送るから、扇辰の新居で宴会をしろ! 呼ぶのは国学院の先輩・元翁(ガンジー・現・社会人落語家の若木家元翁)さんと青学の先輩・花柳(かりゅう・現・社会人落語家の料亭彦柳)さんだ! 絶対開けよ!」ガチャ!

 私の意見など何も聞かず、扇辰邸でのパーティーが決まってしまった。仕方なく扇辰師匠に連絡すると「びん太さんじゃあ、しょうがないので、やりましょう」と言ってくれた。

 

 当日。扇辰邸で宴会を開いていると、突然、呼び鈴が鳴った。入って来たのは、びん太さんだった。本人は淡路島から突然訪ねる「ドッキリ」で面白いと思ったらしいが、反応は薄い。一同「来るなら、言えばいいのに!」「つまらないドッキリだな!」と評判が悪い。

 

 さらに、扇辰師匠の奥さんは魚が苦手らしく「カミさんは河豚は食べられないんです。すいません」とのことだった。

 

 一同「びん太、その辺、調べてから送れよ! 本当に迷惑な奴だな~! でも、しょうがない、ありがとう! カンパーイ!」と盛り上がった。

 

 そして、びん太さんは先輩に「つまらない!」と言われるのが嬉しいのか、ご機嫌に酔っていた。奥さんの「作り笑い」が健気で気の毒だった。

 ちなみに、奥さんは映画「千と千尋の神隠し」のテーマソングを作詞した覚和歌子さんという有名な作詞家である。

 

 びん太流の迷惑なシャレは、ついに、音楽業界にまで被害を与えたのである。

 「奥さん! すいませんでした。私は悪くありません!」

 

 そして、びん太さん! また、河豚送って下さい。私が食べます。

 

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