某ラジオ番組にゲスト出演した春風亭一之輔さんが、書籍「江戸前の男」を紹介していた。この本は先代・柳朝師匠をモデルにした小説である。柳朝師匠は一朝師匠のお師匠さん。つまり、一之輔さんの大師匠である。
高校時代に柳朝師匠の音源を聞いた一之輔さんは「お客の笑いをまたずに、どんどんとテンポよく進む落語に魅力を感じた」様だ。
私も演技の素人ながら「そうそう!」とうなづいてしまった。
40年前の学生時代。私は「火焔太鼓」を覚える時…。王道の「志ん生」「志ん朝」のテープと「柳朝」のテープを聞いて、柳朝師匠のネタで覚えることにした。オリジナルのギャグも多いし、どんどんとテンポよく進むところがジェットコースターの様にエキサイティングだったからだ。
客の笑いを待たないのに、大爆笑が渦巻くような音源だった。
学生の頃。上手い先輩達に「お客が大きく笑ったら、少し待て!」と教えられたが、私には出来なかった。ダメな奴が「笑いを待つ」と自分のテンポが崩れてしまうのだ。コミュニケーションが苦手が性格なのか、人に自分を合わせられないのだ。そんな学生には、このスタイルが合う様な気がした。
覚えてやってみると…。これが、学生にとても良くウケる。自分勝手に「どんどんと進むやり方」が上手くはまっていた。
私は以前やった「反対俥」の後半の様なスピードで、さらに早くやっていたので、25分ぐらいのネタが17分になってしまった。それでも、学生のテンポにあっていたのだろう。先輩達に「あいつ、ヘタだけどウケるな!」と言われる様になった。ヘタでもウケれば私としてはバンザイ!である。
このネタを、専修大学落研が主催する新宿の半分外の会場でやってみた。この時も、外なのに笑いが起こって、司会をしていた実践女子大の落研の先輩に褒められたのが嬉しかった。この女性は昨年の全国大会で敢闘賞をもらった初の女性落研だったので、私はとても誇らしかったのを覚えている。しかも、落研には珍しく美人だった。
当時。他所の大学の方が「ヘタだけどウケる奴」を評価してくれた様な気がする。
その直後の秋。素人の大会に出た私に、審査員の柳朝師匠が褒めて下さったのも良い思い出だ。その時も、客の笑いを無視して「どんどんと進めて」いました。
「江戸前の男」は、我が家の本棚にもある。また、読んでみようか…。