放送業界のお話と落研と私的な思い出(瞳尻・黒舟)

「嗚呼!青春の大根梁山泊~東海大学・僕と落研の物語」スピンオフ・エッセイ。放送関係。業界のエピソードと近所の出来事

内科医の息子K君!

 小学校の同級生で歯医者の息子S君の話を書いたら…。もう一人、同級生で内科医の息子K君のことを思いだした。

 

 以前、私と同じ謎の奇病になったことのある奴だ(コラムを遡ってお読みください)。

 K君の家はお爺さんもお父さんも開業医。自宅は古い武家屋敷を買ったもので、公園の様な巨大な湧き水の池がある。敷地は広大で、そのまま記念公園に出来そうだ。

 

 木造の武家屋敷は母屋以上に広い離れがあり、二階から空中回廊のようなもので繋がっている。江戸時代の建物で、この造りは大工の腕もさることながら、莫大な資金をかけている様だ。

 離れでは私もよく遊ばせてもらったが、本格的な茶室があって、道具が揃っている。実のオバサンが「茶道教室」を開いているそうだ。

 私達は、この茶室の囲炉裏の前でプラモデルを作っていた。おかげで私の子供の頃の認識は、茶室=接着剤の匂いである。

 

 そんなことは良いとして…。歯医者の息子S君と内科医の息子K君の家の教育方針はまるで違っていた。自由奔放のセレブのS君に対し、K君は着るものもオモチャも我々庶民と同じ。お手伝いさんも居ない。駄菓子屋で安いお好み焼きを食べる男だ。

 

 勿論、豪邸なので遊びに行くと、池の湧き水の音がリビングに響き、優雅な時間が流れている。父親が昼の休み時間に池の鯉を釣って楽しんでいたりする。庭には往診用のベンツが止まっている(当時、この街でベンツはこれ一台しか見たことがない)。

 そして、お母さんが美人で品が良い。なんとも穏やかな話し方をする。

 

 私とK君が超安物のゴム動力の車を作って遊んでいた時。二階の子供部屋から、車が階段を落ちて何度も、ガチャガチャと音を立てていた。

 お母さんが「K君!」と上がって来たので、私は「うるさい」と怒られるのだと思った。すると、お母さんは「随分、こってるみたいね!何度も階段を落ちた様だけど、大丈夫?」…。

 私達二人は黙って、静かに遊ぶことにした。上品な口調でも充分「うるさいわよ」と伝わったのだ。

 「やはり、医者の家は違う!」と私は感心したものだ(小五だったが)。

 

 しばらくすると、お母さんが桃を持って来た。「友達から送られて来たんだけど、めしあがれ!」「めしあがれ」という言葉も我が家では聞かない。

 大きな熟れた桃が一つお皿に乗っている。それが二つ。つまり、一人一つだ。これは、私には驚きだった。

 私の感覚では一人分は半分か四分の一である。やはり、何かが違う。そして、お皿には小さなナイフが添えられている。

 「うお~!これは、凄い!セレブだ!」私にはとても新鮮だった。私の家は貧乏過保護だったので「ナイフ・包丁」は触ったことが無かった。しかし、このうちは逆なのだ。将来、医者になるために手先が器用になるように果物の皮は子供が自分でむくのだ!私は衝撃の連続で「この家に生まれたかった」と思ったものだ。

 

 この家のお母さんが、リビングで封筒を開けていた。「あら、同級生の〇〇ちゃんからだわ」開けると絵本が出て来た。「同級生に絵本作家がいるのよ!新作を送ってくれたみたい」。

 「同級生…絵本作家…?」まったく異次元の話である。

 

 お母さんがK君に行った。「Kちゃん、厚手の靴下買ってきなさいね!小林君もつき合ってあげて!」

 近所の衣料品店へと向かう途中で、私は聞いた「靴下って自分で買うの?」「そうだよ!」「俺、自分で買ったことないよ!親が買った物履いてるだけだから…」「俺も普段はそうだけど、今週、スキーに行くから厚い靴下が無かったんだよ!」

 

 「何~!スススス、スキー?スキーって庶民がやるものなのか~!」私の近所にスキーなどする家族は皆無だった。学校でも聞いたことが無い。「若大将シリーズ」と札幌オリンピックしかスキーを見たことが無かった。

 K君は友達にイジメられないように「スキーをやることを隠していた」様だ。

 

 贅沢はさせないK君のご両親だが、大切な体験に関してはやはりセレブだった。

 聞くと、お母さんはスキー場の宿の娘で、医大時代の父親がスキーをしに来て出会ったそうだ。見合い結婚ばかりの時代に、これもセレブだ。若大将とスミちゃんのパターンだ。

 

 ある日。深夜に静岡のSBSラジオを聞いていると、ニュースが流れた。「昨夜、磐田市のK医院の蔵から横山大観の掛け軸が盗まれました」

 「ええええええ~!」私はその頃、横山大観を知らなかったが、ニュースになるということは、高価な物だと分かる。

 

 翌日。K君に「昨日、ニュースで聴いたけど、横山大観の掛け軸、盗まれたんだって?よく、そんなのが有ったね?」「俺も、あるの知らなかった!」

 

 私が遊びに行っている時。蔵に風を入れる為にドアが開いている時があったと思う。本物のセレブは違うものだ。

 

 大人になって「開運!なんでも鑑定団!」を見ていると、横山大観の掛け軸に一億の値がついていた。ふと、K君のことを思いだした。

 

 K君はしっかりと、後を継いで開業医になっている。内科医なので器用な手先はあまり生かされていないかも知れないが…。立派なものである。

 

 私のコラムには、前にも書いたことがシンクロして何度も登場する。どこで、何を書いたか忘れているのだ。体験したことの記憶力は良いのだが、執筆したことの記憶は、その場で忘れてしまう様だ!もう、頭のメモリーが無いのかも知れない。

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