放送業界のお話と落研と私的な思い出(瞳尻・黒舟)

「嗚呼!青春の大根梁山泊~東海大学・僕と落研の物語」スピンオフ・エッセイ。放送関係。業界のエピソードと近所の出来事

薪の竈で炊いた御飯・井戸水・五右衛門風呂の思い出

 五十年程前の事を思い出した。

 

 私が小学校の頃。静岡県磐田市(当時は村)の天竜川近くに母方の実家があった。ここは、当時としても古民家で竈、井戸、五右衛門風呂が現役で活躍していた。

 

 当時、私の知る竈はここだけである。学校の友人宅には一つもなかったので、この家は町でも最古の現役竈の民家だったのではないだろうか?

 建物は農家の平屋造りで、土間があり、竈が二つ。横に五右衛門風呂、外には手漕ぎ式の井戸があった。つまり、電気は使っているが、ガス、水道の無い家である。

 国道沿いの大きな道側は、今は物置の空間があった。ここは、元々手作りの「和菓子屋」だった。

 銀行員だったお爺さんだが、サラリーマンが嫌で独学で「和菓子屋」を始め、大繁盛したそうだ。

 繁盛しすぎで、近所の人気の無い「和菓子屋」が相談に来たという。

 

「みんな、お宅で買うので、うちが潰れそうなんです。なんとかなりませんか?」

そこで、お爺さんは「じゃあ、製法を教えます。うちは、土地があるので農業で食えますから、廃業します」と、辞めてしまったそうだ。

 まったく、人が良すぎる。昭和十年ぐらいのことだと思う。もし、あのまま続けていてくれれば、今は「老舗和菓子屋」になっていたことだろう。

 

 つまり、その頃、和菓子屋で使っていた竈が、お婆ちゃんの家の台所だ(お爺ちゃんは入院中で私は一度しか会ったことが無い)。

 

 私は、夏休みやお祭りで、このお婆ちゃんの家に行くのが楽しみだった。遊びに行くと、婆ちゃんがリヤカーを引いて天龍川へと行く。

 私も着いて行くと、お婆ちゃんは流木を拾いだした。私も手伝って、なるべく乾いた流木をリヤカーに乗せる。

 これが、中々楽しい。この流木は竈で使う薪である。まさに、昔の暮らしだ。薪さえも買わずにダダで済むのだ。

 今、考えれば究極のエコだ。しかも、この竈で炊いた御飯や赤飯はもの凄く旨い。大晦日は、この竈で炊いた餅米で、石臼と杵で「餅つき」もしていた。これも、子供心にとても楽しかったのを思い出す。

 

 竈に薪をくべるのを手伝うのも楽しい。五右衛門風呂を薪で炊いて入るのも新鮮だった。しかも、この、風呂はお爺ちゃんの手作りだという。大きな木桶は水滴一つ漏れない。もはや桶職人級の技術である。樽の底に鉄板を設置して、その上に木の丸い板がある。足は直接鉄板に触れないので熱くない。この板も、手で削った物だった。

 

 小学校高学年の頃。この家が建て替えで取り壊された。私も解体を見に行ったが、なんとも悲しい瞬間だった。トラックや重機で建物ごとなぎ倒された。

 屋根裏から古い掛け軸が沢山出て来たのだが…。そのまま、投げ捨てられた。作業員がホコリをはらって貰って行ったが、あれは、今、思うと「鑑定団」ものの掛け軸だったのかも知れない。

 お爺さんは、大地主の息子なので、分家の時、土地を沢山もらっていた(株で騙されてそうとう無くなったらしい)。ひょっとすると掛け軸も値打ち物だったのかも知れない。

 

 掛け軸は何十本もあるので、作業員が貰わなかったものは、その場で焼かれた。

 

 その燃えた灰を見ていると…。一匹の蝶が止まった。何故?灰に蝶が?と思って見ていた。そして、止まったまま、近づいても蝶は逃げない。

 

 そこに、お婆ちゃんがやって来て言った。

 

 「この、蝶…お爺さんだ!」(この時、お爺さんは亡くなっていた)

 「えっ!」

 「昔を懐かしんで、燃やした灰に止まってるんだよ」

 

 なんだか、怪しい話だが…。このての言葉は「お婆さん」が言うと、信じたくなる。

 確かに、灰に止まる蝶も変だし、逃げない蝶は変だ!

 本当は掛け軸の絵の具などから良い香りがしていた可能性もあるが、そこは、神秘的な方が夢がある。

 

 さらに、それから五年後ぐらいだろうか?

 

 お盆に、お婆ちゃんの家に行くと、玄関の電話にバッタが止まっていた。これが、また、近づいても逃げない。やはり、お婆ちゃんが言った。

 

 「お爺さん、帰って来た!」

 「・・・・・・・」

 

 私は心の中で、あの時の蝶と同じだ!と思ったが言葉が出なかった。

 

 私はバッタを触ってみようとした。すると、お婆ちゃんが…。

 

 「そっとしておいて!お爺さん、お帰り!」と言って去って行った。

 

 お爺ちゃんは、キュウリの馬には乗らず、バッタの中に入って帰って来たのだ。そう思った方が、なんだか、日本的で良い!子供心に、思ったものだ!

 

 もう、とっくにお婆さんもこの世に居ないが、思い出だけは鮮明に残っている。

 

 今回は「放送」でも「落研」でもない、普通の思い出でした。ブログのタイトルに偽りありとなってしまった。

 

 

 

大正時代のエリートで博学だったお爺さんが読んだら、何と言うだろう?多分、あきれることだろう?婆ちゃんは多分「字を読むのは面倒だ」と言うだろう。

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