放送業界のお話と落研と私的な思い出(瞳尻・黒舟)

「嗚呼!青春の大根梁山泊~東海大学・僕と落研の物語」スピンオフ・エッセイ。放送関係。業界のエピソードと近所の出来事

母の死を継げる電話…。

 二十年程前。私の父親から突然電話があった。

 

 父「かあさんが……死んだ。お葬式に帰って来い」

 私「……そうか…急だな!」

 

 人生とははかないものだ。元気だった母親が突然なくなるなんて、私には心の準備はまったく無かった。

 しかし、その時感じたのは、「いつかは来るとは思っていたが、思ったより涙は出ない」ということだ。

 まだ、実感が無いからか、案外冷静に電話を受け止めていた。これは、自分でも驚いた。

 

 すると、父が驚きの言葉を口にした。

 

 父「で、お前は元気か?今、お母さんと代わるから」

 私「えっ?代わるの?」

 

 すると、電話の向こうで母のやたらと明るい声がした。

 母「元気なの!だったら良いよ!」

 私「あの…チョット待って、今、お袋は亡くなったって聞いたんだけど…」

 母「何言ってるのよ!お父さんのお母さん!お婆ちゃんが亡くなったのよ!」

 私「ええええ~!」

 

 確かに父親にとって婆さんは「かあさん」である。「母さんが死んだ」という言葉は間違いではない。

 しかし、父親の粗忽(そこつ)加減には驚いたものだ。息子に電話して「かあさんが死んだ」はオカシイだろう?まるで、落語の「粗忽長屋」の様に「当人と電話で代わる」って、面白過ぎる。

 

 そして、母は言った。

 母「えっ!私が死んだと思ったの?良かったじゃん!私じゃなくて!」

 私「………」(心の声)良かったじゃん!は違わないか?

 

 実は、我が家は父方の親戚とはあまり付き合いが無く、顔を知らない親戚が多い。亡くなったお婆ちゃんの顔も私は憶えていなかった状態だ。

 

 お葬式に行くと、県知事か市長から「紅白の花輪」が届けられていた。百歳以上で地域で一番の長寿だったので、花輪はお祝いと同等の「紅白」になるそうだ(地方によって違うかも知れません)。

 

 大往生だったこともあり、お葬式は「悲しむ」というより「笑顔で」お送りすると言った感じだ。

 

 出棺の時に、知らないオバサンが私に近づき(向こうは子供の頃の私を知っているが…)怒った口調で「何してるの!孫全員で棺を担ぐんだから、早く、行って!」「えっ!」私は初耳である。

 私はあわてて棺を担いだ。いや、担ぐというより持った。実は他の孫の顔も私は良く知らなかった。うちの兄貴しか知った顔は居なかった。

 

 そのまま、焼き場へと行ったのだが…。始めてお骨を拾う作業を手伝った。皆で箸で拾うのだが、ほとんどは余ってしまう。

 残りのほとんどは処分されてしまうようだ。親戚一同で骨壺の三分の一ぐらい入れた時。皆が作業をやめた。「もう、充分」と判断したようだ。

 

 その時。私の父が素手の両掌で残りのお骨をすくって骨壺に入れた。

 

 私は「素手」(熱くないのか?)というところに驚いたが、父は言った。

 

 父「いいんだ!もったいない!昔は親のお骨をかじる人もいたぐらいだ!壺一杯に入れた方がいいんだ!」

 

 私は少し父親を見直していた。我々よりもお婆ちゃんと密接だった親戚の誰も「素手で」入れる者はいない。驚いて見ているだけだ。

 次男で一族から遠ざかっていた、うちの父が、こんなにも母親思いだったのだ。

 

 電話の時は気が動転して、私に「お母さんが死んだ」と言ったのだと分かった。

 

 焼き場を後にした時。父親が一瞬下を向いたのが見えた。涙がこぼれていた。しかし、私達に知られまいと、すぐ、顔を上げて私に言った。「大往生だ!」もう、涙は消えていた。

 多分泣いたことを人に見られたくなかったのだと思った。私も見なかったふりをした。母にも兄にも、この涙のことは言っていない。

 今、初めて文章に記してしまったが、両親はネットなど見られないので問題ないだろう?

 

 私の父は今も元気である。桂米丸師匠と同年の大正15年生まれ。さらに、昭和7年生まれの母も存命だ。

 

 

 

 

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