放送業界のお話と落研と私的な思い出(瞳尻・黒舟)

「嗚呼!青春の大根梁山泊~東海大学・僕と落研の物語」スピンオフ・エッセイ。放送関係。業界のエピソードと近所の出来事

放送業界の嘘つき➁

 私の放送作家の師匠Мは、業界人らしくハッタリや嘘が上手い。成功する為のノウハウらしいが、この方法は私には合わなかった。私はこの嘘に悩まされた。

 

 ある日。ラジオのディレクターが私に言った。

 「おや! 大先生! Yのコーナーの仕掛け人なんだって?」

 

 私は何のことだか分からない。しかも、皮肉っぽい言い方だった。

 Yのコーナーは「映画化」までされた目玉コーナー。私が「見習い」になる前からヒットしているし、私が担当する曜日ではない。

 つまり、私が「仕掛け人」の訳がないのだ。

 

 後で分かったのだが、これは、師匠のМが「うちの小林はYコーナーの仕掛け人だよ」と嘘をついて、私を売り込もうとしていた様だ。それが、当のディレクターに知れてしまったのだ。

 これでは、私が陰で「俺が仕掛け人だ」と嘘のハッタリをかましている様に見えてしまう。

 この誤解で、私は冷たい仕打ちを受けた。まったく迷惑な話である。

 

 とある地方局のスタッフが私を紹介する時。こんなことがあった。

 「こちら、うちの作家の小林さん。学生落語の日本一ですよ」

 「いや! 私、チャンピオンじゃありません。六位入賞ぐらいです」

 私はすぐに訂正した。本当のことだからだ。

 

 すると、この大物スタッフが私に言った。

 「いいんだよ! 誰も分からないんだから…。日本一ってことにしておけば、引きがあるだろう?」

 放送業界とはそういうものなのだろうか? しかし、そんな政治家の学歴詐称のようなマネはしたくない。そんなことで嘘をついても仕方がないからだ。

 

 こんなこともあった。私があるテレビ局で音楽番組のチーフ作家の頃。新人の作家を入れたいと相談された。そこで、ラジオで知り合った作家N君に「音楽は得意?」と聞いてみた。すると「僕、音楽のことなら、相当詳しいですよ!」と即答した。

 

 そこで、紹介して番組に入ってもらった。私は音楽にうといので、戦力になると思ったのだ。しかし、実際、会議をやってみると…。

 N君は、有名なアーティストのヒット曲を知っている程度の男だった。これでは、私の音楽知識と変わりない。呼んだ意味がまったくなかった。

 「信じた私がバカだった」のだ。

 この番組のスタッフは優しい方達で、音楽音痴がバレた後もクビにはしなかった。そう言う意味では、N君のハッタリは成功したのかも知れない。しかし、私には納得がいかなかった。

 

 アメリカでは「ハッタリ」が強く「俺はこの分野で一番だ!」的なアピールが当たり前らしいが、日本の業界で「優秀な人間」は「まあまあ、普通にできますよ」ぐらいのスタンスの男が多いと思う。力量がある者は謙遜できる余裕があるのだ。

 

 ある日。プロデューサーが番組に新人の作家のМを参加させたことがあった。初日の会議は見学がてら何も書かせなかったのだが、我々が会議室で台本を書いていると、横でこの新人が大声ではしゃいでスタッフと話している。あまりに五月蠅いので「君、先輩達が今書いてるんだから、もっと静かに! ヒマだったら、このネタ考えてみて!」と、口封じの為に、台本に入れ込む小ネタを発注してみた。すると、この新人は、ものの一分で一つだけネタのメモを渡すと、また、馬鹿笑いを始めた。

 私は呆れて、相手にしないことにした。一応、ネタを見て面白かったら許そうと思ったが、これが素人以下のつまらないものだった。

 こいつの感覚は何なんだ?

 

 会議が終わり、作家とプロデューサーで飲みに行ったのだが、この新人もついてきた。プロデューサーが気にして誘ったのだ。

 

 飲んで居ると、この新人はやたらと「大風呂敷」で、自分は才能があって何でもできるとアピールしている。自信があるのは良いことだが、さっきのネタを見ている私は半信半疑だ。

 

 飲んでいるうちに、この新人が言った。

 「僕は落語にも詳しいんです」

 P「おお、小林もそうだよ! 話合うんじゃないの?」

  そこで、少し落語のどんな噺が好きなのか? どのくらい観ているのか? 聞いてみた。すると、何もまともな答えは返ってこない。

 私「う~ん! それ、自分で落語詳しいって言わない方がいいんじゃないの?」

 М「そんなことありませんよ! 僕は春風亭昇太さんと友達ですから。よく飲むんです!」

 答えにも何にもなっていない。友達と「落語に詳しい」はイコールではないのだ。

 しかも、言うに事欠いて、昇太さんと友達?! 

 

 私は、携帯で昇太さんに電話した。

 「すいません。今、昇太さんと飲み友達だっていう、Мって作家と飲んでるんですけど…。知り合いですか?」

 「いや、知らない!」

 

 私は、ハラワタが煮えくり返った! 「てめ~! 本人が知らないって言ってるぞ~!」(と心で叫んだ)多分、どこかで会ったことがある程度なのだ。

 「今、本人に電話したら知らないって言ってるよ! あんまり嘘はつかない方がいいよ!」

 流石にМは黙ってしまった。

 

 まったく、後味の悪い飲み会だった。

 

 そして、翌週。プロデューサーが言った。

 「あの新人、雇うのやめた!」

 私は謝って悔い改めてくれれば、それで良いのだが…。飲み会の様子を見ての判断なのだろう? 

 

 私は業界人の「ハッタリ」を信じられない人間になってしまった。このМは他で成功したらしいが、ハッタリが功を奏したのだろうか?

 もし、そうなら「嘘も方便」なのかも知れない。

 

 しかし、私には理解できない…。嘘にも程度があると思う。

 

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