放送業界のお話と落研と私的な思い出

放送関係。業界のエピソードと近所の出来事

ラジオのオーディションテープ

 私が新人作家の頃。某ラジオ局のディレクターTさんが私に声をかけた。

 

 「小林君、今度、新人のオーディションテープとるから、台本書いてよ!」

 「ありがとうございます」

 Tさんは若手の有望株で局内でも一目置かれている人物。私は、この方に声をかけられたのが、とても嬉しかった。

 

 ちなみに、オーディションテープとは、番組ではない。新人タレレント発掘の為に、番組を想定して一本作り、局の偉い方に聞いてもらうためのプレゼン用のテープである。

 

 放送にはのらないが、これは、完全に作家としての仕事である。断る理由はどこにもない。

 話を聞くと、パーソナリティは新人のバンドで、Tさんが「絶対売れる」と確信しているそうだ。

 番組のコンセプトは雑誌の「プレイボーイ」をイメージして欲しいとのこと。オーブニングは当時人気の作家、片岡義男の小説風のナレーションドラマにすると言う。

 

 私はすぐ片岡義男の本を買った。とにかく、言葉のフレーズだけマネて、それ風にしたのだ。はっきり言って、まったく自信がなかった。オチの無いオシャレなナレーションは文章力がいるからだ。

 

 他に、クイズコーナーや、コント的な寸劇もあった。この寸劇は、パーソナリティの持ちネタだった。

 

 Tさんが言った。

 「スタジオに若い女の子を呼びたいんだけど…。誰か呼べないか?」

 「あの…女子高生なら用意できます」

 「お前、凄いね~! それ、作家として売りになるよ!」

 

 私は大学時代に、都内でも有名な、名門女子高御三家の一つJで落研のコーチをしていたのだ(コラムを遡って読んで下さい)。収録は日曜日だったので、バイトで呼ぶことは簡単だった。

 

 収録当日。全ての準備は順調に進んだ。原稿の直しも無く(放送されないのでチェックが甘い)、やっと私も認めてもらえるかもしれない? と心躍る思いだった。

 

 オーディション番組の名前は「ワクワク!ピュッピュ!スタジオ・ギャングル・ブギ!」。意味がまったく分からなかった。

 

 そして、一押し新人ミュージシャンとは、米米CLUBのカールスモーキー石井さん、そして、ジェームス小野田さんだった。

 当時はまだ全国的には無名の存在だったが、Tさんはすでに注目していて、イベントのステージでライブも行っていたのだ。

 

 準備の途中で、Tさんが言った。

 「小林君、BGМにリチャード・クレーダーマンをかけるから、レコード室から何枚か持って来てくれるかな!」

 オーディションテープなのでADさんが居ないのだ。私は初めてレコード室を使うことになった。誰も居ないレコード室は図書館の様だ。

 引き出しの中に検索カードが並んでいる。そこで、私は「リチャード」のRでレコードを捜した。すると…。無い! もう一度、初めから見た! やっぱり無い! 私はパニックになってしまった。

 「レコードすら出せないダメな奴」と言われたくないからだ。

 

 落ち着け! レコードは絶対にあるのだ! リチャードはRじゃないのか? L? いや、それはない。けど、調べてみよう。当然無い!

 時間はドンドン過ぎてゆく。あわてた私は、次の瞬間…。ガタ~ン! 

 検索の引き出しをヒックリ返してしまった。「ああああ~!」カードが飛び出して順番が変わってしまった。しかし、並べ替える時間は無い。そのまま戻して誤魔化した。

 冷汗が顔から流れ落ちる! 「リチャード! リチャード! どこにあるんだ?」

 

 そこに、Tさんが現れた。

 「遅いよ! 何やってんだよ?」

 私は正直に言った。

 「あの、リチャードで調べても無いんです」

 「そうなの…ああー! 本当だ! ないね! あっ! クレーダーマンで入ってた!」

 Tさんは簡単にレコードを取り出してしまった。

 

 私の頭の中は、大ショック! ガ~ン! である。

 

 何で? リチャード・クレーダーマンが「クレーダーマン」で入ってるんだよ!

 じゃあ、五木ひろしは「ひろし」で入ってるのか? サザンオールスターズは「オールスターズ」で入っているのかよ? 「オカシイだろう!」。私はレコードを整理した人を恨んだ。

 

 しかし、「リチャード」がダメなら「クレーダーマン」で調べるという発想は、業界人には必要なものだ。優秀なスタッフは、臨機応変な対応で効率よく仕事が出来るのだ。新人のダメさを痛感した瞬間だった。

 

 Tさんは怒っていなかったので、事なきを得た。なんとも優しい方である。

 

 この後。オーディションテープは快調に収録できた。クイズコーナーもバイトの女子高生が頑張ってくれたし、ジェームズ小野田さんのかみ合わない会話が楽しかった。

 

 オープニングで、石井さんが「小野田君、初めてのラジオなんだから何か言いなよ!」するとジェームスさんはキャラを作って…。

 「山は動かん! ガッハッハッハ~!」

 「そう言うことじゃなくて、小野田さん、皆さんに一言!」

 「川は流れる! ガッハッハハッハ~!」

 会話にならないメチャクチャの会話が面白かった。

 

 このオーディションテープはかなり良いのでは? と思った。Tさんも気に入っていた様で「これ、番組になるかもよ! その時は、小林君にやってもらうよ」と、涙ものの言葉をくれた。

 

 後日。Tさんが言った。「あの、オーディションテープを上司に聞かせたら、「危ない奴だ」って言うんだよ!」

 「えっ!」

 どうやら、会話が成り立たないキャラを作った会話が「危ない奴」に聞こえたようだ。上司はオープニングしか聞いていなかったのかも知れないと思った。

 

 結局、番組にはならなかったが、数年後、赤坂の某ラジオ局でカールスモーキー石井さんの番組が始まり、人気となった。バンドとしても米米クラブは日本のトップへと踊り出ていた。

 

 Tさんは先見の明があったのだと思う。

 そして、番組の成功には運の要素があることを知った。

 

 

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