たしか昭和56年。私が東海大学落語研究部の2年生の時。大阪の落語家による話題の会があった。桂三枝師匠(現・文枝)を筆頭に、月亭八方、笑福亭福笑、桂文珍、笑福亭仁智、桂べかこ(現・南光)、桂小春、笑福亭鶴志、(敬称略)などが参加していた。この中から六人が出演していた。
その名は創作落語の会「落語現在派宣言」(新宿紀伊国屋ホール)。
四年生の実志(じっし・現・ディレクター山崎)さんが部室で、この落語会のパワーが凄かったと語っていた。この会は全員が自作自演の創作落語を演じる当時としては画期的な会である。東京では三遊亭円丈師匠が中心となり「実験落語の会」で新作を披露していたが、上方の創作落語が東京に来たのは初めてだった。
情報にうとい私は、この会のことをまったく知らず、開かれたことも認知していなかった。その話を切奴(現・昇太師匠)さんも真剣に聞いている。切奴さんは円丈師匠の新作に心酔していたので、上方の創作にも興味深々である。
東海落研の先輩達は、新しいものに敏感で、常に刺激を求めている様だった。私と違って芝居などもよく観ていた。
話によると、べかこ師匠の「あー!」と叫ぶ新作落語が斬新だったと言う。面白い枕があったと再現して演じてみせてくれた。
私は遅ればせながら、第二回を観に行った。
そして、笑福亭福笑師匠の「北の旅色事指南」というネタに衝撃を受けた。旅でナンパする噺だったと思うが、返しが剃刀のような切れ味で、テンポとパワーがもの凄い! 爆笑に次ぐ爆笑がいつまでも終わらないのだ。私は上方の創作落語のとりこになってしまった。
当然、第三回も観に行った。この時の写真が現在発売・七月号(2020年)の「東京かわら版」に載っている。それを見て思い出して、今、綴っているのだ。
この時の各師匠の演目が「東京かわら版」に載っているが、私はほとんど覚えていない。爆笑した記憶はあるのだが、それをかき消すほどの高座を最後に観たからだ。
この日の主任(とり)は桂三枝師匠の「ゴルフ夜明け前」である。
この話は、幕末に坂本龍馬が新選組の近藤勇とゴルフをするというものだ。坂本を良く思わない近藤、沖田がゴルフで負けて悔しがるのが何ともコミカルな作品だ。
私が衝撃を受けたのは、ゴルフから帰った近藤が「坂本め! 何がゴルフだ!」とゴルフを全否定して怒りながら刀の手入れをする場面だ。
怒りながら手入れした刀を構える。ここは、無言である。最初は剣の構えなのだが、いつの間にかゴルフの構えになる。ここで、紀伊国屋ホールが後ろから波打つように大爆笑となった。ここでは、何のセリフも言っていない。笑いの後「楽しかった~!」と言うと、また爆笑になるのだが、最初の大爆笑は仕草だけなのである。
つまり近藤勇は本当はゴルフが楽しかったが、認めたくなくて虚勢をはっていたことが、この仕草だけで会場に伝わったのだ。
私は落語の仕草だけで会場がひっくり返る様な「大爆笑」となったのを観たことが無かった。普通は、仕草プラス言葉が伴って爆笑となる。この斬新な演出。笑いの量。すっ、凄い! その後。放心状態で新宿思い出横丁で飲んだ。
桂三枝師匠はこの時の「ゴルフ夜明け前」で芸術祭の大賞を受賞した。芸術祭大賞と言えば、昭和の名人・文楽、志ん生、円生、等の各師匠がとった最高峰の賞である。
創作落語が大賞をとったのは、この時が初めてだったと思う。
さらに「ゴルフ夜明け前」は映画化までされた。落語家の原作が映画化されるのは、春風亭柳昇師匠(昇太さんの師匠)の「与太郎戦記」以来ではないだろうか?
後に立川志の輔師匠の創作落語「歓喜の歌」が映画化されるまで映画化はなかったと思う。
話は変わるが、春風亭昇太師匠の新作「花粉寿司」の中で、花粉症に苦しむ寿司屋の板前が座布団に本当に横になるシーンがある。これも、仕草だけなのに大きな笑いが起る。この手の笑いを観たのは「ゴルフ夜明け前」以来である。
そう言えば、昇太さんの「悲しみにてやんでい」は、芝居化され、さらに、単館上映だが映画化もされている。
さらに、昇太さんは実は芸術祭大賞もとっているのだ。
凄い師匠たちには、どこか共通点がある。
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