放送業界のお話と落研と私的な思い出(瞳尻・黒舟)

「嗚呼!青春の大根梁山泊~東海大学・僕と落研の物語」スピンオフ・エッセイ。放送関係。業界のエピソードと近所の出来事

経堂「さばの湯」は出会いの酒場だ!

 小田急線・経堂駅近くに「さばの湯」と言う唯一無二の居酒屋がある。ここは、私の知り合い、コメディーライターの須田泰成さんが経営する店だ。

 

 ここは、コント、落語、演劇、音楽ライブと、あらゆるエンタメが観られる不思議な居酒屋である。それも、普通は大ホールでしか観られない超大物芸人が突然出演したりする。

 

 ある日。この店で飲んで居ると…。前田さんと言う若者に会った。穏やかな話し方の関西弁でとても感じが良い。落語に詳しく、話も面白い人だった。

 

 店の常連に聞くと、前田さんの本職はヴィジュアル系バンドのドラムだという。しかも、その世界ではメジャーなバンドだと言う。

 私は、音楽の話をしなかったが、この方に大坂の落語のことなどを聞いて楽しんでいた。

 

 ある日。この前田さんが一人で「トークと音楽のライブ」をやると言うので、下北沢まで観に行った。話は上手いし、バンドではドラムだがギターの弾き語りも披露していた。

 

 この前田さんは、落語もやると言う。「桂九雀独演会」のゲストに出るというので、行ってみた。すると、前田さんは上方落語の「七度狐」を美しく演じていた。アマチュアのレベルではない芯のしっかりした芸である。はっきり言って上手すぎる。とても、バンドマンとは思えない。

 

 実は、この前田さんは、あの桂枝雀師匠の息子さん・前田一知さんだった。

 

 また「さばの湯」に行くと、前田さんが居た。私は、前から気になっていたことを話してみた。

 

 「志村けんさんの酔っ払いって、枝雀師匠を参考にしてますよね! 「すびばせんね~!」って言う時なんか、枝雀師匠と同じやりかたですよね?」

 「はい! 志村さんが使ってくれてるのは、オヤジが喜んでいました。実は、「ダッフンダ!」もオヤジが落語の中でやってるんですよ!」

 ええ~! 良いこと聞いた~! 

 「実は知り合いの作家が昔、志村さんの運転手をしていて、車の中で毎日、枝雀さんの落語を聞いていたそうですよ」

 「そうですか、実は、オヤジが志村さんに、一度、お会いしましょうか? と言ったことがあるんですよ。志村さんが恐縮しちゃって、実現しなかったんです」

 

 おおお~! 凄い裏話を聞いてしまった。飲みに来て正解である。

 

 さらに、前田さんが語ってくれた。

 「オヤジは毎日風呂の中で「軒付け」を稽古するんですよ。子供の頃、「何で同じ噺ばっかりやるの?」」と聞いたら、「「初演でつっかえた唯一の演目が「軒付け」だったから」って言うんですよ!」

 他の噺は初演で「つかえたことがない」のも凄いが、毎日「軒付け」だけを風呂で稽古するのも凄い!

 上方の「爆笑王」はとてつもない努力家なのだ。

 

 さらに前田さんは「僕は、枝雀の落語より小米時代のオヤジの落語が好きなんです。だから、僕は家にある小米時代のテープで覚えてるんです」

 「ええええええええ~!」

 

 枝雀師匠は、若手の頃、小米として活躍。当時は米朝師匠の芸を踏襲する美しい落語だったと聞いたことがある。

 前田さんの落語が美しかったの当然である。

 

 その数年後。前田さんはバンドを辞めた。そして、落語家・桂りょうばとなった。噺家としては、かなり遅いデビューである。

 

 本職となり、この方の遺伝子が覚醒したら、大変なことになると思う。

 

 噺家になったのは随分前の話だが、私はまだ、桂りょうばさんの落語を観ていない。

 そろそろ、観ておかなくてはと思う今日この頃である。

 

 勉強不足ですいません。私が知らないだけで、もう、覚醒しているかもしれません。

 

 

こちらは、青春ドキュメント!落語馬鹿は白書なエッセイです。

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