新人放送作家の頃。六本木の事務所にいると商品先物の営業マンから電話がかかってきた。しつこく「話を聞いて下さい」と言うので、ヒマに任せて話を聞いてみた。
「是非、会って話がしたい」と言うので、私は拒否した。すると「話だけでいいから」としつこい。そこで、私は正直に教えてあげることにした。
「私は絶対やらないから、時間の無駄ですよ。会ってもやらない人で粘るより、他の人に電話した方が儲かる可能性が高いですよ。」
すると「いや、やらなくても結構です」と譲らない。そこで、「待ち合わせの喫茶店も行けないこともありますよ。突然、仕事ができたりしますから…」
すると「それでもいい」と言う。「本当に、行かなくても怒りませんね? 確約はできませんよ」「それでもいいです」。仕方なく日取りを決めることになった。
当然、私は指定の喫茶店には行かなかった。すると、翌日、事務所に電話があった。
「ひどいじゃないですか? 来ないなんて!」
「あのねー! 私はいけないかも知れないけど良いの?って聞いたよね? しかも、他の人に電話した方が良いってアドバイスまであげたよね?」
ここまで言っても、「もう一度待ち合わせしたい」と言う。仕方が無いので、
「行けなくても怒らないでね!」とチャント断って約束した。
当然、指定の場所には行かなかった。すると、翌日。今度は女性の社員から電話があった。「ひどいじゃないですか? 待ち合わせに来ないなんて」。
「だから、私は、最初から行かないかも? と言ってますよ」
「今度は、きて下さいね!」とあまり粘るので、
「女性が電話しても、行くと怖い男が来るんでしょう?」
「そんなことありません。私が行きます」
「でも、行かないかも知れないよ!」
「それでも、いいです」
当然、指定の場所には行かなかった。すると、翌日。あの女性から電話があった。
「びどいじゃないですか! 来ないなんて!」
「だから、行かないかもって言ったよね?」
「あなたのことを調べました。本出してますよね?」
「えっ!」
「〇〇〇〇論の著者ですよね?」
「すいません、それは同姓同名のどこかの教授です」
そこで、少し嘘をついてみた。
「私も、本出してるんで、もし、買ってくれたら会ってもいいです」
「それは、いいです」
えっ! 経費で買えばいいのに。買うのは嫌なんだ!と心の中で叫ぶ私。すると、向こうは「もう、電話しません。あなたは、ブラックリストに載せます!ガチャ!」
いつの間にか、こっちが迷惑電話の犯人にされてしまった。
すると、事務所に師匠のМが入って来た。
「おい! 最近、事務所に電話すると話し中が多いけど、どこに電話してるんだ? 女か?」
「いや! 現金先物取引の営業がうるさくて!」
「バカ野郎! そんなのすぐ切れ!」
正直者の私が怒られてしまった。まったく迷惑な話である。
悔しい気持ちで家に帰ると、我が家のボロアパート(風呂なし・トイレ共同)に電話がかかった。
私が出ると…?! 何と! 若い女の声で喘ぎ声が聞こえて来た。
最初はテープでも流しているのかと聞いていると、アドリブも利いて、「ほら! あなたも声だして! あああ~!そこよ~!」などと言っている。
世の中は広いものだ。本当にこんな女性が実在するのだ。とは思ったが…私は何も声を発しなかった。何かの詐欺かもしれないからだ。
すると、その女性はドンドンとエスカレートして行く! それでも、私が無言で聞いていると…。
「もう~~! こいつ、気持ち悪い!ガチャ!」と向こうが切ってしまった。
まったく失礼な話だ。気持ち悪いのは、こっちの方である。
数日後。某有楽町のラジオ局の番組のエンディングで久本雅美さんが、私に言った。
「作家の小林ちゃん、今週、面白いことなかった?」
「いや! 別になかったですねー!」
「嘘だよ、思い出せば一週間に一度は何かあるもんだよ」
「ええーと?」
そこで、あのエロな電話のことを思いだした。状況を細かく説明すると、久本さんは嬉しそうに聞いて、笑っている。そして、最後に言った。
「ガッハッハ~! それはあたしだよ! お前はノリが悪いんだよ! 何で一緒に演技しね~んだよ! アドリブ利かね~な~! 全然つまんなかった! このムッツリスケベ! 小林は気持ち悪い! 時間だ!それではまた、来週~!」
酷いとばっちりだ。イタズラ電話された上に、つまらない奴扱いである。しかし、一緒に喘いでいたら、もっと、酷いことになった筈だ。へたすれば、オープニングトークで変態扱いされたかもしれない(今、思うとそっちの方が美味しいが!)。
羽野晶紀ちゃんからの留守番電話は嬉しかったが(遡って読んで下さい)、久本さんのイタズラ電話は…?! それなりに嬉しかったです。
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