放送業界のお話と落研と私的な思い出(瞳尻・黒舟)

「嗚呼!青春の大根梁山泊~東海大学・僕と落研の物語」スピンオフ・エッセイ。放送関係。業界のエピソードと近所の出来事

あの凄い店・再び!

 かつて、世田谷区経堂にあった「〇〇〇の看板」のバー。春風亭柳好師匠に教えてもらつた「必ず何か起こる店」に数か月後に行った時のことだ。

 

 カウンターの右にダンディーな紳士。左にミュージシャン風のカッコいいオジサンが座っていた。

 私はその真ん中に座って、ビールを頼んだ。中を見ると、今日はママともう一人、いつも客で来ているお姉さんが居た。今夜は特別に「客のお姉さん」がママをやっているそうだ。

 

 左のミュージシャン風のオジサンが、代打ママに口を開いた。

 「昨日の、君は良かったよ!」

 「やめて! 何言ってるの?」 

 「いいじゃないか、あんなに声をあげて!」

 「やめて! この変態!」

 (笑顔で)「ありがとう!」

 

 うわ~! また凄い客の登場だ! 

 「お前の、ベッドは最高だったぜ!」

 「やめろ! この変態! 帰れ!」

 (笑顔で)「ありがとう!」

 どんなに怒られても「ありがとう!」で閉めるのが彼の決まりらしい。これは、ただ者ではない。

 

 この後、とても文章には書けないような、官能小説の描写みたいな会話が続き、その度に代打ママは怒っていた。

 かなり激しい喧嘩口調だが、つき合っているカップルの喧嘩ではしょうがないと思っていた。

 

 そして、オジサンがトイレに立った。すると…。代打ママが小声で…。

 「皆さん、信じないで下さいね! 私はあいつと何の関係もないんです。全部嘘!ストーカーで、私のゴミをあさったり、朝、玄関の前に立っていたりする奴なんです」

 

 おおお~! 今日も当たりだ~! 

 

 こんなハードなストーカーの本物が見られるなんて、人生で初めてである。代打ママには可哀そうだが、これはパンダより珍しい。一生に一度のことかもしれない。

 

 すると、今度はカウンターの右に居たダンディな紳士がトイレに立った。すると、代打ママが小声で言った。

 「あの人、ここのママのストーカーで、しつこいから、私が代打でやってるのよ!」

 数日前、店に警察を呼ぶほどの問題になったらしい。

 

 おおおおおおおおお~! 凄い! 

 

 私はカウンターで左右を本物のストーカーに挟まれて飲んでいるのだ。ここが「ストーカーバー」なら(そんなバーは無いが)、ナンバーワンホストに挟まれた最高の席である。

 

 ダンディ紳士がトイレから帰ると、ミュージシャン風の言葉攻めはエスカレートしていた。ついに…。

 「お前の〇〇〇は良かったぜ!」(ついに、放送禁止用語のアレを言ってしまった)

 「やめて! 出まかせ言うな! ド変態!」

 (笑顔で)「ありがとう!」

 

 ここで、右に居たダンディ紳士が、カウンターを叩いて怒った。

 「君は、さっきから何だ! 代打ママがいやがってるだろう! 下品だ!」

 

 私は心の中でつぶやいた「この人、人のことは分かるんだ!」。「人間は自分のことは罪の意識がなくとも、人の悪いところは良く分かる」と言う教訓を学んでしまった。

 例え、ストーカーでも学ぶことはあるものだ。

 

 しかし、右の客から「下品だ!」と言われた左の客は「ありがとう!」とは言わなかった。「ありがとう」は男には言わない特別な言葉の様だ。

 

 世の中には色々な人間が居るものだ。このお店は今風に言えば「集まれ 面白客の森」(集まれどうぶつの森)である。実は狸が経営していたのかも知れない。

 

 

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