ある番組の収録の後。私が会場を去ろうとすると…。色紙を持った六十才ぐらいの男性が、私に「サイン下さい」と言った。私は放送作家なのでサインなどねだられる人間ではない。
「お願いします。小遊三師匠」
私は花粉症で一年の半分はマスクをしている。この時もマスクをしていたので、間違えた様だ。
はっきり言って似てるのは髪型ぐらいで顔は小遊三師匠とは全然違う。しいて言えば私の父親が小遊三師匠に少し似ている。そのテイストがどこかにあるのかも知れないが、本人と間違える程ではない。
以前、上野鈴本演芸場の客席に居た時。隣の五十代と思われる男性が話しかけて来た。
「いつも、見てますよ!」
「誰かと間違えてませんか?」
「またまた~! 分かってますよ! 萬窓さん!」
どうやら、三遊亭萬窓師匠と間違えているのだ。
「いえ! 違います」
「またまた~!」
本人が違うと言っているのに信じてくれないのだ。
これには、私も困った。
落語家の世界には、同業者を客席で聞いてはいけないと言う決まりがある。舞台のソデから聞くものなのだ。
つまり、萬窓師匠が寄席の客席にいる筈がない。この方は、落語初心者の方だったのだろう。
私が名古屋でレギュラーの仕事をしていた時。名古屋駅からタクシーに乗り「中京テレビまで」と言うと、運転手さんが「私、お父さんのファンでね~!」と言い出した。お父さんのファン? 私の父は専売公社勤務だった。絶対に誰かと間違えている。
「お父さんの唄が好きでね~!」
「あの~!誰かと間違えてますよ!」
「分かってますよ! 三波豊和さん!」
「違います。私は小林と言います」
「本名が?」
「違いますよ!」
「分かってますよ! 「お笑い漫画道場」の収録でしょう?」
確かに「お笑い漫画道場」は中京テレビ製作の全国ネット番組。そこで、私が豊和さんだとかってに思ったのだ。
もう、面倒なので、それ以上否定はしなかった。
時代は遡るが…。私が二十代の頃。有楽町の某ラジオ局の守衛のオジサンに、言われたことがある。
「あなた、東に似てるね?」
「そのまのんま東さんですか?」と聞くと…
「違うよ! シブがき隊だよ!」
シブがき隊も違っているが、この守衛さんは少年隊の東に似ていると言っているのだ。
もし、ファンの方がこれを読んでいたら気を悪くするかも知れないが、守衛さんが言うのだから仕方がない。
しかし、局の守衛さんは本物も見ているはずである。どこか一部のパーツが似ていた
のかもしれない。
そこに居合わせたスタッフはひっくり返って笑っていたが、私は、チョット嬉しかった。
今度は私の話ではないが…。その昔、ラジオ番組のメンバーで久本雅美さんと一緒に温泉に行ったことがある。帰りに熱海で観光していると、オジサンが久本さんに近づいて来た。
「あれ! あんた!」
この時、まだ、久本さんは全国区では無かったが、これは、気づかれた! と思い、スタッフは身構えた。もしもの時は、守らねば! そんな空気になったのである。そして、次の瞬間。オジサンが口を開いた…。
「あっ! キョンキョン?」
全員が崩れ落ちて笑ってしまった。言うにことかいて、キョンキョンとは? 勿論、久本さんも美人だが、ジャンルが違いすぎる。
当時はまだブラウン管テレビだったが、皆さんのお宅のテレビの画面が曲がっていたとしか思えない。
また、春風亭昇太師匠は昔「お兄さんみたいに頑張りなさい」と言われたことがあると言う。詳しく聞くと、林家いっ平さん(現・三平師匠)と間違われていたそうだ。
最後に、もう一つ。最近、スマホのアプリで「写真を入れると有名人で誰に似ているか分かる」アプリをやってみた。そこで、春風亭一之輔師匠の写真を入れてみると、似ている人「ひょっこりはん」と出た。入れた写真は横から覗き込んでいる写真だった。動きだけかよ!
今や春風亭一之輔はかなりの有名人である。何故? 似ている人は「一之輔」と出ないのだ。このアプリの精度は「守衛さん」か「運転手さん」か「熱海のオジサン」級である。
その無料アプリは、すぐに削除した。
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