放送業界のお話と落研と私的な思い出(瞳尻・黒舟)

「嗚呼!青春の大根梁山泊~東海大学・僕と落研の物語」スピンオフ・エッセイ。放送関係。業界のエピソードと近所の出来事

桶田敬太郎君が突然➈庭ファーム

 二つ隣に住む、元・フォークダンスDE成子坂の桶田君が、突然、訪ねてきた。

 「小林さん、庭で野菜育てましょう!」

 「何それ? ここで育つかな?」

 「僕も始めたんです」

 

 賃貸だが、この物件には十畳ほどの庭が付いている。桶田君はうちの庭に出ると、芝生をはがし始めた。大家さんが綺麗に敷いてくれた芝生はまだ根付いていなかったので、そのまま、シートの様にはがれるのだ。

 

 芝生まではがれては、もう、野菜を育てるしかない。何故なら私は「断らない男」だからだ。

 

 すぐ、ホームセンターに行って、ナス、ゴーヤ、トマト、キュウリ、枝豆、ブロッコリー、色々な苗や種を購入した。

 

 桶田君はクワを持参して「これ、あげます。耕して下さい。カマもあります」

 いきなり、クワとカマのプレゼントとは、もう適当にやる訳には行かない。

 

 畑を始めたのは良いが、私の庭と敬太郎君の庭だけ野菜が生い茂る森の様になってしまった。こうなると、小鳥や小動物が寄ってくる。

 ある日、ブロッコリーを見ると葉っぱが食われている。調べると虫ではない。ブロッコリーの葉は小鳥の好物のようで、毎日、メジロ風の鳥がやってきて、ブロッコリーの上に乘って回りの葉を食べているのだ。

 葉はみるみるうちに一枚も無くなっていた。ブロッコリーを食べないのはありがたいが、見るとブロッコリーの上に大きな鳥の糞がソフトクリームの様に乗っていた。

 私はブロッコリーを食べる食欲がなくなった。

 

 トマトは三つぐらいしかならなかったが、一つ、大きくて市販の物に負けないトマトがあった。日に日に赤く成ってゆく。「明日が食べごろだな!」と思い、翌朝、庭に出ると……そのトマトは鳥に食われていた。鳥も「明日が食べごろ」と同じことを考えていたのだ。私は悔しくなって、糞を洗ったブロッコリーを食べた。「鳥に負けないぞ!」。

 

 庭で野菜を育てると、大変なのは毎日の水やりである。春までは二日に一度でも良いが、真夏は一日水を怠ると野菜がしおれてしまうのだ。これでは、泊りがけの地方の仕事にも行けない。

 

 さらに、野菜が沢山あると虫が集まって来る。蚊も集まるので虫よけスプレーをしても何か所が刺されるようになった。

 

 同じ物件で畑が二つあるのだから、相乗効果で、ハクビシンやウグイスもやってくる。私の家では毎日「ホーホケキョウ」の声が聞こえるのだ。

 こうなると、時間もゆっくり流れて行く。

 

 素人の畑なので、ほとんどの野菜はイマイチなのだが、キュウリとゴーヤだけは、毎日、三本は採れる。敬太郎君が訪ねてきた。

 「これ、出来過ぎたので食べて下さい」見ると、ゴーヤが山盛りある。

 しかし、敬太郎の庭に山盛りあると言うことは、うちにも山盛りあるのだ。冷蔵庫はゴーヤだらけ。ゴーヤ地獄の毎日が始まった。

 さらに、キュウリは二日も目を離すと巨大化してしまい食べられない。ゴーヤも気づかない場所にあるものは黄色く熟して爆発している。ゴーヤは、とらずにおくと黄色やオレンジ色になって爆発して種を放出するのだ。一つ勉強になった。

 熟したゴーヤは不味くて食べられないので、処分するしかない。

 

 その後、私はスーパーへ行くと、野菜が安く思えてならない。普通は自分で作ると「高く」思えるのだが、私は「あんなに苦労するなら、買った方が良い」「こんなに安く売って農家は儲かるのか?」と思ってしまうのだ。

 

 結論!「野菜は安い!」。敬太郎君にまた一つ人生で大切なことを教えられた。

 

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