放送業界のお話と落研と私的な思い出(瞳尻・黒舟)

「嗚呼!青春の大根梁山泊~東海大学・僕と落研の物語」スピンオフ・エッセイ。放送関係。業界のエピソードと近所の出来事

桶田敬太郎君が突然➆

 元フォークダンスDE成子坂桶田敬太郎君から、突然、電話があった。時代はさかのぼる。私が名古屋・中京テレビで「電波結社バババ団」という成子坂司会の番組を構成していた頃だと思う。

 

 「小林さん、うちに遊びに来ませんか?」

 「えっ! うちはどこだっけ?」

 

 敬太郎君の部屋に行くのは、この時が初めて。番組の打ち合わせで話すことはあるが、彼はお酒を飲まないので、あまり話したことがなかったのだ。

 何で! 突然、私に連絡したのだろう? とりあえず行くことにした。何故なら、私は「断らない男」だからだ。

 

 大体の道を聞いて、目黒のマンションへと行ってみた。駐車場には敬太郎の愛車・外車の高級ジープと高級バイクが置いてある。当時、彼は同世代の芸人では一番収入が多かった。

 

 部屋に入ると驚いた! ワンルームなのだが壁一面が水槽で、アロワナ、ピラニア、熱帯魚、などが大水槽で泳いでいるのだ。

 「僕、魚が好きなんですよ!」

 「好きって、度が過ぎるよ!」

 三メートルぐらいの水槽が二段になって四つか六つあるのだ。しかも、アロワナは五十センチ以上の魚である。

 私「これ、エサどうするの?」

  「エサはこれです」

 敬太郎君は、台所のバケツから金魚を持って来て水槽に入れた。アロアナはすぐに一口で食べてしまった。ピラニアの水槽などはもっと悲惨な光景が展開されていた。

 金魚の餌は毎週買いに行くと言う。魚が好きなのは分かるが、金魚はそんなに好きではない様なのだ。やはり、天才の感性は常人には分からない。

 

 すると敬太郎君。

 「ゲームやりませんか?」

 見ると発売されたばかりの初代「バーチャファイター」だった。私はゲームはまったく分からないので操作もおぼつかない。敬太郎はそれを面白がっているのようだ。

 「僕、最終画面まで行ってるんですよ!」

 

 最強の最終画面を出して、私に「やれ!」と言うのだ。技の出し方も分からない私は、メチャクチャにボタンを押しまくってみた。すると、見たこともない技が出て私が勝ってしまったのだ。

 

 敬太郎「小林さん、メチャクチャだな~! 僕が何か月もかけてやったのに! 運持ちすぎですよ~!」。

 運を褒められてしまった。これが、接待ゴルフなら相手をしくじるところだが、私も何も分からずやったので仕方がない。

 

 「こっちのゲームもやりますか?」

 出したのは「弟切草」という怖いゲームだった。私はこの手が嫌いなので、気分も沈んでしまった。もう、夜の一時ぐらいだったろうか?

 

 「小林さん、実は、渚(相方)に内緒のネタを生本番でぶつけるってのを、やってるんですよ。明日の朝の番組なんですが、何かありませんか?」

 

 敬太郎が私を呼んだのは、明日のネタ作りをしたかったのだ。最初から言ってくれれば良いのに。「アロワナ」「ゲーム」を挟まないと言いずらかった様だ。ロスタイムは三時間ぐらいあったと思う。

 

 とりあえず、適当なことばかり提案していると…。敬太郎君…

 「うう~ん! まあ、そんなんで、やってみますか! もう遅いんで、今日はこんなところで…」

 

 あきれてお開きにしたのだろうか? そのネタを翌日やったかどうかは定かではない。多分、あの反応ではやっていないと思われる。

 

 それから、何度も部屋に遊びに行くようになった。その後、ネタの話などは、まったくしなかったが、仕事場の不満や芸人の笑い話をよく教えてくれた。「小林さんはネタの話より世間話した方が面白い」と判断した様だ。私はリアクションが良いからだ。

 

 数年後、敬太郎君から連絡があり、引っ越すと言う。

 「そこで、相談なんですが、小林さんアロアナ飼いませんか?」

 「ええ~! 無理だよ~!」

 「水槽ごとあげますよ。引越し先に置けないんです」

 

 気持ちは分かるが、私はその時、1LDKの十五畳住まい。この巨大な水槽は置けない。しかも、金魚を餌にするのは可哀そうでいたたまれない。

 今、思うと貰ってすぐに売れば数十万、または数百万になったかも知れないが、私はその手のことをしない主義である。

 「悪いけど、俺は飼えないよ!」

 

 数日後、敬太郎君から電話があった。

 「あの水槽と魚、面倒なので捨てました!」

 「え~!捨てたの? 魚はショップに売れたんじゃないの?」

 「いや、持っていくのが面倒で!」

 私も欲が無いが敬太郎も欲がない。アロアナは百万以上で売れたような気がする。殺処分するとはもったいない話だ。ピラニアだって高い筈だ。

 

 常識人にはできない、天才ならではの行動である。しかし、私がもらって売ればよかったな~! と後悔が残る。

 

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