放送業界のお話と落研と私的な思い出(瞳尻・黒舟)

「嗚呼!青春の大根梁山泊~東海大学・僕と落研の物語」スピンオフ・エッセイ。放送関係。業界のエピソードと近所の出来事

春風亭一之輔の凄さ!

 春風亭一之輔師匠が、また、十日間の落語配信をする。浅草演芸ホールの興業が飛んだ為。その代わりに生配信するという。前回、上野・鈴本演芸場の中止の時も同様の配信を行ったが、土曜日の視聴者は四万九千人を超えていた。東京ドームがほぼ満員である。

 

 これは、落語としては驚きの数字である。

 ネタを毎日変えたのも凄い!

 

 以前、私が構成をしていた番組「落語者」(テレビ朝日)に、二つ目時代の一之輔さんに出演してもらったことがある。この番組は真打しか出ていなかったが「二十一人抜きの歴史的真打」ということでプレゼンしたら、スタッフが納得してくれたのだ。

 

 その時、何をやるかの打ち合わせで本人に聞くと「「欠伸指南」をやりたい」と言っう。私はすぐに「テレビだから、もっと、派手なネタが良いよ」と言った。すると、一之輔は強い口調で「「欠伸指南」は地味じゃないですよ」と言った。

 私の先入観では「欠伸指南」は寄席で眠くなる噺と思っていた。勿論、志ん生師匠の音源などを聞けば爆笑なのだが、テレビ的に損なネタだと思っていたのだ。本人の希望なので、そのまま「欠伸指南」で収録することになった。

 

 この時の「欠伸指南」の放送をリアルタイムで見ていると、何と! 落語の途中でアメリカが空爆を始めたという速報の文字が一之輔の頭の上にかかってしまった。

 これでは、チャンネルはみんなNHKに替えられてしまうだろう。「一之輔!運がないな!」と私は思った。

 しかし、この時の視聴率は一之輔の「欠伸指南」が全局でトップ。空爆の映像にも勝ってしまったのだ。

 

 この「欠伸指南」には、随所に新しい工夫がちりばめられていて、派手で大爆笑の一席に仕上がっていた。実は、一之輔は二つ目での出演ながら「落語者」で三回も視聴率トップをとっている(全演者で最多1位)。

 

 今回の、10日間の生放送中に世界で何か起っても、視聴者は見続けることだろう。空爆に勝った只一人の落語家。この高座を見ない手はない。