三十年程前だろうか…。放送作家の先輩、植竹公和さんに呼ばれて、テレビ東京の番組「ききわけのない悪魔たち」という番組を担当したことがある。
週替わりで芸人さんがMCを務めるバラエティーで、ダウンタウン、ウッチャンナンチャン、などが出演する大きな番組だ。
若手芸人が登場する回もあって、オーディションには爆笑問題、ズビーム、松村邦洋、キットカット(一人は、イジリー岡田)などが参加していた。
この番組で、植竹さんの下に私と、もう一人若手の作家がいたのだが(名前が思い出せない)、この人が車で局に来ていた。
帰りに駅まで送ってくれたのだが、駐車場に止まっていたのは「何と!」初期型のフェアレディ―Zだった。子供の頃、プラモデルで見た凄い車である。
私も仕事が色々と入って来た頃だったが、まだ、車は持っいなかった。
そこで「よく、こんな車に乗れるね~!」と言うと…
〇〇「これ、三十万です」
私「ええ!そんなに安いの!」
植竹「俺の大学の落研の同級生が車屋やってるんだよ!紹介しようか!三十万ぐらいで、いいの探してくれるよ!」
私はフェアレディーZが欲しくて、すぐに紹介してもらった。
早速、三十万円持って車屋へ行くと、そこは、中古車屋ではなくNのディーラーだった。
とりあえず、経営者に「植竹さんの紹介で来た小林です」と告げると「ああ、話は聞いてるよ!裏に中古置いてあるから…」と連れて行かれた。
そして、中古の在庫を見た私は、落胆した。
軽自動車や軽トラ、ワゴン、ばかりで欲しい車が何もないのだ。
「あの~!ファレディZありませんか?」
「ないね~!あの時は、たまたま、下取りした車だったからね~!」
「三十万で買える良い車ありませんか?」
「えっ!三十万だと、やっと走る車しかないよ!この軽とか!」
まったく話が違う。しかし、仕事をくれたありがたい先輩・植竹さんの紹介では、文句を言う訳にはいかない(植竹さんは法政の落研。我々の先輩後輩は絶対的なものなのだ!)。
私はサスガに、今日は帰ろうと思っていたが…。経営者は思いついた様に言った。
「あっ!今、下取りしたばかりのクレスタならあるんだけど…」
「どんな車でしたっけ?」
店の前の大通りに、下取り直後のクレスタが置かれていた。みると、田舎の暴走族に人気があった車種だ。
しかし、さっき、ボロボロの軽やワゴンを見たので、かなりまともに見えた。
傷がなく大切に乗った車の様だ。
「いくらですか?」
「これなら、八十万でいいよ!まだ、三万キロしか走ってないから、お得ですよ!エンジンはトヨタ2000GTと同じです」
確かに、良い車っぽいが…。私の予算は三十万だ。しかし、話の流れからして恥ずかしくて言えなくなってしまった。しかも、我々の世代には、ボンドカーにもなったトヨタ2000GTと同じエンジンと言う言葉には魔力がある。
当時、私は仕事が入り出した頃で、収入はあったし、自然の流れに乗って生きる性格である。「植竹さんに貰った仕事のギャラで買えばいいか!」と思い、つい試乗もせずに「買います」と言ってしまった。
後日、私は現金八十万円でクレスタを購入した。
乗ってみると、確かに高級感がある。スポーツモードのボタンがあり、押すとキビキビと走る。
この車で事務所に行くと、整備士の免許を持つМ師匠が言った。「おっ!生意気にツインカム」じゃねーか」
何の意味か分からなかったが、褒められた様だ!
車購入二カ月後ぐらいだろうか、初めて高速に乗ってみた。すると、「あれ!」スピードが百キロを超えると「すっと」車体がスライドする。あれ!事故車か?!
怖いので近所のディーラーで見てもらうと、タイヤのバランスが悪いと言われ、ローテーションするとスライドしなくなった。
安心して乗っていると…。あれ?エンジンの温度がドンドン上がっている…。このままではオーバーヒートだ!
近所のディーラーで見てもらうと、サーモスタットが壊れているとのこと。交換すると温度は上がらなくなった。
安心して乗っていると…。あれ?今度はエンジン音がのも凄い。停車しているのにフルでアクセルを踏んだ時の音がする。
どうやら、アクセルを踏んだ状態から戻らなくなったようだ。物理的なアクセルは上がっていても、エンジンは戻らないのだ。
仕方なく大音響を放つ暴走族車両の様な状態で、ディーラーへと直行した。
そして、ディラ―で見てもらうと…。
店員「異常はありませんよ」
私「そんな馬鹿な・・」(さっきまでの状態を説明した)
店員「でも、今はほら!」
確かに、エンジン音は普通である。
「どこか、引っかかってるとかないですか?」
「いや!ないです」
結局、原因は分からずじまい。しかし、また、いつ、エンジンが暴走するか分からない状態だ。そんな時、近所のお店で見たのが、今、乗っている初代マツダ・ロードスターである。
私はクレスタを売ってロードスターに乗り換えた。
その車に今も乗っているという訳だ。最初はフェアレディーZのつもりが、いつの間にか、ロードスターとなり、そして「こんなに楽しい車は無い」と思う様になった。
初めてマニュアル車に乗ったことと、ゴーカートの様な運転感覚が心地よいのだ。
今、思うと…。あの時の植竹さんの言葉が無かったら、私は車を買わなかったかもしれない。そうなると、植竹さんはロードスターの仲人である。
ところで、あの作家はZを売ったのだろうか?今も持っていれば、大変なお宝なのだが…。
車の話題はまったく出てこない、青春エッセイ!好評発売中です!
↓
宣伝。ネット書籍「嗚呼!青春の大根梁山泊~東海大学・僕と落研の物語~」上・中・下
「嗚呼!青春の大根梁山泊~放送業界編~」も出ました!こちらの文章は、今後も継続して新原稿がアップされる予定です。
直木賞には程遠い、青春エッセイを皆様に…
安いです。上→200円。中→300円。下→300円。
「放送業界編」800円(高そうに見えますが、上中下に分けていないので、枚数と値段は同等です)
「青春落語バカの楽しいエピソード」有名劇団の主催者や脚本家、演出家絶賛!
脚本家の穴吹一朗君も稲葉一広さん、神奈川の高校の副校長・木馬君も喜んでくれたエッセイ!
↓
https://note.com/bakodayo1874basu