放送業界のお話と落研と私的な思い出(瞳尻・黒舟)

放送関係。業界のエピソードと近所の出来事

作家はみんなノウハウが違う!

 新人放送作家の頃。師匠のМ先生に言われて、都内某局の人気番組の会議に出ていたことがある。М先生の得意な「話はつけてやったから、ノーギャラで行ってこい」という理不尽な命令が下ったのだ。

 

 М先生は局のPにお願いて「ノーギャラで毎週ネタは持っていく」と約束している。私としてはせめて「勉強の為に一度だけ見学」または「安くても良いからギャラ」にして欲しかったのだが、師匠の命令では仕方がない。

 

 ただ、この番組は日本中の話題になった超ビッグ番組。演出は天才的なDと言われたIさんだった。確かにどんな会議をするか気になる番組である。

 

 局Pの紹介でノーギャラなので、問題なく会議に参加できることになった。

 

 会議に出ると、一人の作家が私に声をかけた。

 「黒舟! 元気か?」

 「えっ! 黒舟…」

 そこには見覚えのある顔の作家がいた。

 

 その人は、落研と同じ東海大学文化部連合・E研究会の三年先輩・Kさんだった。私は会議で「小林と申します。よろしくお願いします」と挨拶しているのに、いきなり「黒舟!」と呼ばれて恥ずかしかった。

 他のスタッフは何を言っているのか分からない。

 

 このKさんは、会議中は口数が多く明るい。常に発表に「合いの手」を入れている。

 

 そして、驚いたのは他の作家は毎回「四本」のネタを手書きで書いて発表するのだが、このKさんは毎回「十二本」は発表するのだ。しかも、全て綺麗な手書きのイラスト入りだ。

 他の作家もイラスト入りは何人か居たが、このKさんの絵は漫画家の様に上手い。気合の入り方が違うのだ。

 

 私は、このタイプの放送作家を初めて見た。大先生タイプの人は「三~四本」のネタを出して「一本~二本」採用されるイメージがあったからだ。

 一度にあまり沢山出すとアイディアが枯れて「長く活躍できない」と思っていた。

 

 しかし、Kさんは毎週「十二本。少ない時でも十本」は出してくるのだ。しかも、採用されなくても堂々と帰って行く。

 私のイメージする売れっ子作家のスタイルを覆す「売れっ子作家」だった。

 

 その時私は、このKさん。採用率が低いのに何故「売れっ子」で居られるのだろう? と思っていた。しかし、それは私の甘い間違えだった。

 

 ある日。Kさんが大量に出したネタの一つに、演出家のIさんが反応した。

 「これって、ドキュメントだよね! やってみようか!」

  はっきり言って、他のスタッフは全く反応しなかったネタである。バラエティなのにドキュメントな失恋ネタを出してきたのだ。

 今では「ドキュメント・バラエティ」と言う言葉があるが、当時、お笑いでこの手の企画は無かった。

 

 私も、この企画は笑いが無いと思って聞いていた。すると、局Pが言った。

 「Iちゃんが乘るなら、やってみれば!」

 Iさんは局Pの絶対的な信用を得ている存在なのだ。

 

 この企画の放送を見て、私は驚いた! ひっくり返る様な大爆笑の連発なのだ。

 

 「真剣に泣き叫ぶ女性」は本人が真剣なほど、見ると面白かった。この企画に出演希望者がいることも驚異だったが、番組では「優しく心を癒す企画」を沢山用意している。現場では失恋した女性の話を真剣に聞いて共感し、レポーターが一緒に泣き、励ましている。そして、最後に明日への希望を与えているのだ。

 

 お陰で、この企画はレギュラー化され、何回も続編が行われた。

 この時、私は気づいたのだが…。打率良く沢山ネタを通している作家のネタは、「単発で一回放送して終わり」と言うネタが多い。

 しかし、Kさんのこのネタは毎回できる。つまり、番組貢献度はトップと同じなのだ。

 

 放送作家プロ野球選手と同じで成績が全てだが、自分で打席数を増やすことができる(沢山ネタを出す)。打率は低くでも作家は「ヒット数」が全てだ。三倍打席に立ってもヒット数がトップならOKなのだ(率は関係ない)。

 Kさんの場合。記憶に残る場外ホームランを飛ばしている。

 

 ネタの量産やイラストはとても私にはマネができないが、作家の生き方はそれぞれ。鉄板の方程式などないと思った瞬間である。人のマネをするより、自分の鉄板パターンを作った者が成功しているのだ。

 

 果たして、私には何があるのだろうか? 何もない。売りと言えば「ノーギャラ」と言うことぐらいだ。しかし、これではプロではない。

 悩みに悩んだ新人の頃の思い出である。

 

 

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