二十代の放送作家の頃。東海大学落研の一つ先輩、味彩(あじさい)さんから電話があった。この方は女性で、某放送局でタイムキーパーをやっていた。
この人から電話があるのは珍しい。卒業以来初めてだったのではないだろうか?
私は自宅で仕事の途中だったのだが「今、渋谷で知り合いのディレクターとタイムキーパーの仲間と飲んでるんだけど…出てこれない?」と言うのだ。
しかも、夜の十二時近くだったと思う。私は断ったのだが…。
「今、あんたの話で盛り上がってるから、タクシーで来なよ!」と言うのだ。
私は仕方なく、仕事を中断して渋谷の店までタクシーで行った。
店に入ると、味彩さんと男性ディレクター、もう一人のタイムキーパーがかなり酔っている。
しかも、私が入ったとたん「お店は看板で~す!」と言われてしまった。ビールの一杯も飲まずに閉店となってしまったのだ。
ディレクターの若い男が、初対面の私に耳打ちして来た。
「小林さん、僕、お金足りないんです。立て替えてくれませんか?」
おいおい! 金のために呼んだのかよ! しかも、半額は俺が出すようだ。
仕方なく私は金を払って店を出た。私がムスッとしていると、若いディレクターが言った。
「道玄坂にプールがあるラブホがあるんすよ。そこで、カラオケやりましょう」
こいつ、一文無しのくせに言うことは大胆である。
つまり、ホテル代も私が立て替えることになるのだ。
ホテルに入って、スケルトンのプールを眺めながらカラオケとなった。流石にプールに入る者はいない。水着も無い。
ディレクター曰く、もう一部屋とってあると言う(払いは私だが)。どうやら、この男は、もう一人のタイムキーパーを狙っていて、今夜、決めようとしているのだ。
そして、私と味彩さんを、もう一つの部屋に行くように仕向けてくる。
つまり、この男にとって味彩さんの存在は邪魔。さらに、お金が無いので私を呼んで全て解決しようとしていたのだ。
何で俺が彼女でもない先輩と泊まらなくてはいけないのだ。しかも、私はまだ一杯も酒を飲んでいない。金を払っただけだ。
しばらく、カラオケを歌うと、先輩の味彩さんが「私、もう一つの部屋見て来るね!」と言って鍵を持って出て行った。
しかも、一時間しても帰ってこないのだ。
そこで、ディレクターの男が言った。
「小林さん、見てきて下さい」
仕方が無いので、部屋の呼び鈴を鳴らすと、全然、出てこない。寝ている様なのだ!
頭に来た私は、ピンポン!ピンポン!ピンポン!ピンポン!ピンポン!ピンポン!ピンポン!ピンポン!ピンポン!ピンポン! 起きるまで連打した。
すると、眠い目をこすりながら味彩さんがドアを開けた。しかも、チェーンがかけてある。
「先輩、カラオケやってるんですから、戻って下さい!」
「私、眠い!」
「ダメですよ! そんなの! 開けて下さい!」すると味彩さんは……。
「私、そんな女じゃないから!」ガチャ!
「こらこらこら! 違うだろう~!」
味彩さんは二度とドアを開けることは無かった。
仕方が無いので、元の部屋に戻ると。ピンポ~ン! 出ない。
ピンポ~ン!ピンポ~ン!ピンポ~ン!ピンポ~ン!ピンポ~ン!ピンポ~ン!ピンポ~ン!ピンポ~ン! くくくそ~! こっちも締め出しかよ!
私は怒り心頭して、味彩さんの部屋に戻って呼び鈴を連打した!ピンポ~ン!ピンポ~ン!ピンポ~ン!ピンポ~ン!ピンポ~ン!ピンポ~ン!ピンポ~ン!ピンポ~ン!ピンポ~ン!ピンポ~ン! 「この腐れ女~! 出て来やがれ~!」(心の声)
迷惑そうな顔で出て来た味彩さんに私は切れ気味に言った。
「向こうの部屋、空きませんよ! もう、なにか始まってますよ!」
「分かった! じゃあ、私のタクシーチケットで帰ろう!」
何が分かったなのか分からないが、味彩さんは局のタクシーチケットで私を家まで送り、不機嫌そうに帰って行った。
ちなみに、あのディレクターとタイムキーパーは、のちに結婚し離婚したそうである。しかも、この男とは会ったことが無いし連絡先も知らない。この時私が立て替えたお金は帰ってこなかった。
落研の先輩には、理不尽な人が多いが、この手の物理的損害を与える人は珍しい。
今回も、私は思う! 「俺、悪くないよね? 被害者だよね?」
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