数日前。大学落研の後輩から突然の電話。「東京に出てきているから飲みませんか」とのこと。彼は私が5年生の時の一年の都雷(トライ)君。高校のラグビー部だった奴だ。二人だけで飲むのは今回が初めてだ。
面白そうなので新宿の焼き鳥屋へ行った。話を聞くと…。私が5年生の春にやった「火焔太鼓」に憧れて「僕も火焔太鼓やったんですよ」とのこと。この時の「火焔太鼓」は私も良く覚えている。このネタは三年の時が初演だが…。一年以上やっていなかった。
春に三年生が「先輩もどこかで主任(とり)をお願いします」と言ったのだ。私はナマケモノなので5年目は、まともな落語をやったことが無かった。賑やかしだけのお気楽OBを楽しんでいた。うろおぼえの「欠伸指南」をやって落ち前で間違えたりしていた。
しかし…主任となると、それなりにチャントやらないといけない。そこで、三年の時は、春風亭柳朝師匠(先代)のネタをそのままやっていたのだが…。大きく変えることにした。当時の最新CMのフレーズ「美味しものは逃げ足速い」をもじって「美味しいお客は逃げ足速い」と入れてみた。意外と好感触だ。
調子に乗って、定吉のセリフに小噺の定番を入れ込んでみた。小噺単品だと学生がやるとしらけるものだが「親戚のオジサンだけど、奉公人なんだから旦那さんと言え」と言われた定吉に「ねえ!オジサン!あっ!ダメなの?旦那!ナンダ!」と入れると学生がどっと笑った。「そうか定番の小噺も会話の中に入れれば新鮮に見えるんだ」と気づいた瞬間だ。
ギャグを入れた部分を細かく語っていると…。後輩は「そのギャグは僕ははずしました」などと言ってくる。奴は部室に有った私のテープを聞いて覚えたようだ。
私のギャグを外すとは、まったく、酷い後輩だ。ちなみに、はずされたのはお侍が「この太鼓、ずいぶんと時代がついておるな?」「えー!時代だけは付いてます。ここが時代で、ここが時代でないなんてことは無いんです。ぜーんぶ時代!あんな時代もあったよね!(中島みゆきの「時代」より)」「何を申しておる!」
後輩は言った。「僕がやりたかったのは、袂から300両を出す時、出してすぐ引っ込めて、チャッチャッ!って言ったクスグリです」。
私も思い出した。これは、やるつもりはなかったが、あまりに客席がウケていたので、調子に乗ってアドリブで「チョット見せて引っ込める仕草」をして「チャッチャッ!」と言ったのだ…。何故か笑いが渦巻いた。おカミさんが「何よ!今の驚こうとしたら引っ込んじゃったじゃないの!」「だから、いきなりだと刺激が強いから予告編だ!」などと、じらしたのだ。
まさか、あの、高座に上ってからのアドリブがやりたかったとは…。意外である。
実は他にも私の「火焔太鼓」に憧れたと言った後輩が2人居た。本人としては「反対俥」「提灯屋」の方が良かったと思っていたのだが…。やると見るとでは印象が違うようだ。
そう言えば、三年の冬に新宿山野ホールの主任を任された時「「妾馬」をやる」と言ったら、先輩の切奴さん(昇太師匠)が「お前は「火焔太鼓」の方がいいんじゃないか」と言ったのを思い出す。私はかたくなに「いや!「妾馬」なんとかします」と圓生師匠と志ん生師匠の音源で覚えて、水を打ったようなドッチラケに成っていた。
人の意見は聞くものである。
追伸。柳家わさび師匠に渡した私の「火焔太鼓」の音源。素人の良さが出ていて気に入ったので、二度聞いてくれたそうです。おべっかだとは思いますが…嬉しかった。
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