私は戦争が嫌いだが…。子供の頃から、兵器のデザインが好きだった。中でもドイツの戦車の造形の良さに魅せられていた。
小学六年の頃。クラスの男子の団結は完璧で、いつも、同じメンバー5~6人でつるんでいた。ある日。小学校の5時間目が終わると、リーダー格のAが言った。
A「今から浜松行ってプラモデル見に行こうぜ!」
私「えっ!子供だけで行って怒られないかな?」
A「大丈夫だよ!バスで行けばすぐだよ」
一同「それ、凄げーな!親無しで浜松行ったことねーよ!行こうぜ!」
私「俺は、やめとくよ…」
A「あっ!コバ!男じゃね~な!」(私はコバと呼ばれていた)
そして、この「男じゃね~な!」が心に響いた。これは、映画「バックトゥザフューチャー」で言うところの「チキン!」に値する言葉である。
主人公、マーティーは「チキン!」と言われると、どんな喧嘩の挑戦も受けていた。
私「行くよ!男だもん!」
みんなで少ない小銭を握りしめて、バスに乗り込み、5人程で憧れの都・浜松へと向かった。
小学生が平日の放課後に浜松へ行くのは「超不良」の行為である。数日前も、子供だけで浜松へ行った生徒が、帰りの電車賃が無くなって、線路を歩いて帰宅して大問題になっていた。
小学6年生の私達には、映画「スタンドバイミー」級の大冒険である。浜松でどんな不良にカツアゲされるかも知れない(そんな街ではないが…)。
大人からすると、国鉄で二駅(現在は増えている)。バスで30分程の隣町なのだが、田舎では子供だけでバスや電車に乗ることは無かった。自転車で行ける範囲だけが活動圏内なのだ。
我々は、浜松に着くと…。松菱デパートへと行った。静岡県西部のランドマークは松菱と決まっていたのだ(現在・松菱は倒産)。
そして、ソフトクリームを食べた。本格的なソフトクリームは磐田では食べられなかった。
その後は、オモチャ売り場で戦車のプラモデルを見た。買えないので、あくまで見るだけだ。
箱の絵を見て「格好いいな~!タイガーⅠ型があるぜ!」「うわ~!スゲ~!やっぱり、戦車はタイガーⅠ型に限るよな!」
ドイツのタイガーⅠ型・戦車は子供達に圧倒的な人気があった。
「キューベル・ワーゲンとシュビームワーゲンも渋いよな!」(あのフォルクスワーゲンが大戦時、軍事用のジープを作っていたが、当時の私は自動車メーカーの名とは知らなかった)
A「いつか、みんなでリモコン戦車買って、戦わせようぜ!」(当時はまだラジコンんは無かった)
K「じゃあ、俺はタイガーⅠ型買うよ!」
私「あっ!きたねー!俺もⅠ型がいいよ!」
A「ダメだよ!全員別の戦車買って並べて走らせるんだから!」
B「俺、シャーマンにする」
A「俺は、キングタイガーかな」
ℂ「俺、ロンメル」
私はうろたえた。どんどんと選択肢が無くなって行く。
私「じゃあ、俺、あれにするよ!」(もう、知らない戦車を指さしている)
A「渋いな~!チーフテンか!」
私は、チーフテンを買うことに成った。
そして、夢を語り合った仲間は、最終のバスで磐田へと帰った。すると、メンバーが降りる加茂川のバス停に、人だかりが居る。
普段、人など居ないのに不思議な光景だった。バスのドアが開くと、大人達が数人乗り込んで来て、我々の腕をつかんだ。「哲也!何やってるんだ?」
良く見ると、私の父親だ。Aの父親も、Bの父親も、Cの父親もいる。みんな、親に怒られている。中には平手打ちされている者もいる。
事情を聴くと…。学校から帰りが遅いので、親たちは連絡しあった様だ。そして「多分、浜松にでも遊びに行ったのでは?」との予測から、バス停で待ち伏せしていたのだ。
家に帰ると、私の父親も母親もあまり怒ってはいなかったが、他の親が「怒っている」ので、立場上合わせていたそうだ。
現代なら、隣町の学校までバスや電車で通う子供は普通である。何故、昔の田舎の小学生は子供だけで隣町へ行ってはいけなかったのだろう?
そして、半年後。我々はお小遣いを貯めて…。戦車を並べて走らせることに成功した。私は勿論、チーフテンを走らせた。
しかし…。隣を走るドイツのタイガーⅠ型の格好良さには、少し嫉妬していた。「おれも、やっぱり、ダイガーⅠ型が良かったな~!」と思う心を内に秘めていた。
あれから、40年程した頃。私は、ネット通販でタイガーⅠ型のラジコンを買った。今の私が欲しい訳ではないが、子供の頃の自分に買ったのだ。
私はよく、この手の買い物をする。怪獣のフィギアも部屋にある。その全ては、今の私ではなく、子供の頃の私に買った物だ。
だから、大人の私は戦車で遊ぶことは無い。でも、飾っておきたいのだ。
ラジコンとしては一番安いタイガーⅠ型。プラモデルではなく完成品。大人は面倒で作れない!
あれから、7年後。一人で電車もバスも乗れる様になった大学生のやったことは、あの頃と大して変わっていなかった!
趣味がプラモデルから落語へと変わった、おバカ大学生たちの「スタンドバイミー」の記録です。
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