放送業界のお話と落研と私的な思い出(瞳尻・黒舟)

「嗚呼!青春の大根梁山泊~東海大学・僕と落研の物語」スピンオフ・エッセイ。放送関係。業界のエピソードと近所の出来事

幼き頃の父の思い出!

 五十年も前のことに成る。私は市営住宅に住んでいた。父親は専売公社の工場勤務で、何とも地味な家庭だ。

 

 私の田舎は茶畑や煙草畑があり、農業の家庭も多い。田舎で土地が安いせいか、大手の企業の工場も多い。あの、「ヤマハ」「スズキ」も磐田に工場があった。

 近隣の町にも「パイオニア」「NEC」「ホンダ」等のそうそうたる工場がある。

 

 工場勤めと農業の多い地元で、工場とは言え専売公社という国営企業は珍しい部類の職業だ。日本一大きなタバコの工場で、父親は煙草を生産する機械の調整整備をやっていた。

 つまり、ラインが不具合で止まらない限り、基本的に仕事は無いのだ。子供心に何と楽な仕事なんだ!と思っていた。

 

 当時、漫画の「ダメおやじ」が流行していたため、漫画を見る度に「うちの父親と同じだ!」と思ったものだ。

 

 ある日。父親が休暇を取った時があった。子供の行事があったのだろうか?子供の私は憶えていない。

 その父が休んだその日に、珍しくラインの不具合が出て生産が一日中ストップしたそうである。

 

 翌日。父が工場へ行くと…。不具合の出た煙草を見て「これは、〇〇の調整だよ!」と、ものの十分で直してしまったそうだ。

 その日。家に帰った父は、鼻高々に言った。

 

 「うちの若い奴らは、東大とか京大出てるけど、全然ダメだな!コンピューターのデータ見て、どこが悪いか探して一日中やってるんだよ!機械が分かってりゃあ、煙草を巻いたのりしろの幅で、どこの調整か分かるのに…。勉強ばっかりやってる奴はダメだな!」

 

 楽してダメな父親だと思っていた私だが…。考えが変わった。これは、時代劇の用心棒と同じなのだ。

 普段はお酒を飲んで遊んでいるが、敵が来た時だけ出て行って、一刀で相手を倒す。三船敏郎の役だ!

 

 別の日だが…。私が最寄りの静岡県磐田駅に居ると、偶然、父と会社の数人が出張で電車に乗るところだった。

 その時、父を見て驚いたのは、上司や後輩の態度である。上司は国立大出の年下(上司だが後輩・大卒しか上司になれない)、部下も国立大出だ。

 上司も含め全員が父親に敬語を使って敬っている。本当に用心棒の扱いだった。私も父も目も合わせず見なかったフリをしていた。

 なにか気恥ずかしかったが、私は誇らしかった。学の無い父が輝いていたからだ。

 

 私の父は、大正15年生まれ。尋常小学校しか出ていない。名古屋の軍事工場で高射砲の照準器を作っていたそうだ。それだけあって、旋盤の技術にたけていた。

 何でも、軍の兵器の製品基準は普通の部品の比ではなく、とくに、狙いを定める照準器は寸分の狂いでもはねられるそうである。

 熟練した指の感覚がないとダメな様だ。

 子供の頃、父の作る竹とんぼがまっすぐ高く上がることに驚いたが、あれは、職人の技だったのだ。

 私がマネして作った竹とんぼは、バランスが悪く、全然飛ばなかった。

 

 ちなみに、その、父が作っていた照準器を搭載した高射砲で、敵を攻撃中に手を負傷したのが、春風亭柳昇師匠である(昇太さん師匠)。まさか、父が作ったものではないと思うが…。

 

 家庭ではリアル「ダメおやじ」だと思っていた父親だが、会社では違っていたようだ。

 

 世界の巨匠・黒澤明監督の言葉を思い出した。「僕は、成城の自宅に近づく程、地位が低くなるんだよ!」(一言一句はあっていません、うろ覚えです)。

 海外の映画祭に行けば国賓扱いの監督が日本へ帰ると、普通の映画監督。家に帰ると、だだのオヤジになってしまう。

 

 日本の家庭とは、どこも、そんなものなのかも知れない。

 

 

父親は、まだ健在だが、この文章のことは知らない!以前、お正月に田舎へ帰った時、「子供の時作ってくれた、竹とんぼ作ってよ!」と言ったら「青竹じゃないと手が痛いからいやだ!」と断られた。私は、手が動くうちに形見に作ってもらおうとしたのだが…。そんなことは言えない…。

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直木賞には程遠い、青春エッセイを皆様に…

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