放送業界のお話と落研と私的な思い出(瞳尻・黒舟)

「嗚呼!青春の大根梁山泊~東海大学・僕と落研の物語」スピンオフ・エッセイ。放送関係。業界のエピソードと近所の出来事

前座さんで気になる存在!

  数年前。下北沢のドーンという劇場で、学生落語の審査員を頼まれた。3~4回やったと思うが、その時、参加していた学生達が数人プロの噺家になっているようだ。

 

 この時の出演者は、レベルが高く、誰に賞をあげて良いものか悩んだものだ。

 

 すでに、岐阜の策伝大賞というNHKでも放送された大会で活躍している学生が多く、関東の落研オールスター戦といった感じだった。

 

 この時。法政大学の学生で粗削りだが、パワーが有ってやたらと笑いを取る男がいた。他の学生も上手い子が多く、繊細なプロ風の芸の学生も数人いた。

 私の感覚だと、普通の学生の全国大会なら優勝できる人材が3~4人居るレベルだ。

 

 審査員は私ともう人、地方のイベンターの方が居たのだが、その方も審査に困ったのだろう。私に「優勝は小林さんに任せます!誰にしますか?」と聞いた。

 

 私は「粗削り」だが将来性のある法政大の学生が頭に浮かんだのだが。迷った末に、基本に忠実で綺麗に古典(上方落語)を演じて笑いが多かった、明治大の学生を選んだ。

 その理由は、一番苦労して稽古したのは、この子だと思ったからだ。

 

 他の目立つ学生達は、センス抜群で伸び伸びとやっていたが、チョコっと覚えて、すぐ面白くできる「天才肌」だったと思う。

 不器用だが、悩んで練習し倒して、ここまで仕上げた姿が明治大の学生には見えたのだ。学生時代の自分を重ね合わせてしまったのかも知れない。

 

 私が「明治大を選んでいいですか?」と言うと、インベンターの方は「じゃあ、私は特別賞で法政大を選びます」との返事が来た。

 やはり、この人も「粗削り」だが「魅力がある」と感じたのだろう。

 

 このイベンターの方は「良い所を見つけて褒める」私に対して、古典の技術に厳しい批評をしていたが、賞を選ぶ時は逆に「将来性」を選んだ様だ。

 

 この時。法政大の学生は、「僕、プロになりたんです」と宣言していた。大会の会場で「プロ宣言」するとは、大した度胸の持ち主だ。

 

 この学生は、今、落語芸術協会で、前座修行をしている様だ。協会の公式プロフィールに出身大学は載せられていないが、顔が同じだからだ。

 

 この下北ドーンのメンバーは、他にも三人程プロの門を叩き、前座修行をしている様だ。

 ちなみに、私が優勝に推薦した明治大の彼は、プロにはならなかった様だ。それも、正解だと思う。

 

下北沢で頑張って戦った、落研の皆さんに是非読んで頂きたい、青春ドキュメント!

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