放送業界のお話と落研と私的な思い出(瞳尻・黒舟)

「嗚呼!青春の大根梁山泊~東海大学・僕と落研の物語」スピンオフ・エッセイ。放送関係。業界のエピソードと近所の出来事

人生を変えた名著「高校放浪記」「与太郎戦記」

 昭和53年頃。私は静岡県の工業高校に通っていた。私は数学が嫌いだし、手先も器用ではない。実験なども嫌いである。

 ただ、その高校が大学の付属校でエスカレーター式に大学に行けるというだけの理由で入学していた(学内でそれなりの成績は必要だが)。

 

 この高校は、ヤンチャな連中が多く、市内でも怖がられる存在だった。私はいたって真面目だが、電車に乗っていると隣に居た学生が、私の体に触れただけで「すいません!」と謝ってくる。

 この制服を見ただけで、周りの学校が怖がっていたのだ。これは、OBに大物の不良がいたのでついてしまったイメージである。

 

 実は、私の学年には、そこまで悪い奴は居なかった気がする。

 

 とはいえ…。私に被害を与えないだけで、個人的には停学、退学、する者は多かった。しかし、たいした犯罪ではなく、学校に内緒で免許を取ったとか、喫煙が見つかった程度の悪だった。

 それと、私は何故か怖いと言われる同級生と入学時に仲良くなっていたので、被害が無かったのかも知れない。

 私が入学してすぐ、隣のクラスの眉毛の無い男に「お前、悪そうな顔だな!不良だろう?」というと「そんなことね~よ!お前はどうなんだ?」「真面目だよ!」「嘘つけ!」等と、盛り上がっていた。

 その男が、後で、学内で怖がられている人物だと聞いて驚いたことがある。彼はボクシング部で天下をとった。

 彼と仲の良い私は必然的に誰もつっかかってこないのだ。

 

 中学で柔道初段をとっていたのも良かった様だ。ラッキーにもこの高校の柔道部の一年生に黒帯はいなかった。計算尺部の私が黒帯で柔道の授業に出ると、みんな驚いていた。柔道の先生には「柔道部入らないと毎回しごくぞ!」と投げられまくったのには困ったが、一時間の我慢である。 

 

 私の鈍感力は大したものだ。おかげで、三年間、喧嘩とは無縁の学生生活を送ることができた。これはラッキーだったと思う。

 

 そんな環境の私は、当然、読書などほとんどしなかった。

 

 そんなある日。手塚治虫の漫画を買いに地元・磐田市駅近くの書店へと行くと、何故か本棚の中でひと際輝く本があった。

 手に取ると「高校放浪記」とある。著者は稲田耕三。私はまったく知らない著者だったが、何か惹かれるところがあったのだろう。すぐに上下巻を購入した。

 

 私はそれまで、上下巻ある本を買ったことが無い。長いと途中で飽きてしまうからだ。しかし、この時は何故か買ってしまったのだ。

 

 家に帰ると、ダメもとで本を読んでみた。すると、スラスラと読める。展開が早く面白い。

 

 主人公の稲田君は著者の若い頃で、全てが実話のドキュメント。

 中学まで勉強がトップだった著者だが、友達を救う為に不良高校と喧嘩をしてしまう。

 すると、不良が仕返しに来る。それを、一撃で倒すと、その不良が親に言って「殴られた」と学校に言いつける。「チクるとは卑怯な!」と制裁を加えると、さらに問題は大きくなる。

 そこで、進学校の先生は稲田君を問題児と決めつける。

 

 そこから、次々と、友やプライドを守るために喧嘩することになる。しかも、ことごとく勝ってしまう為、一番の問題児にされてしまうのだ。

 

 そんな喧嘩生活を送る稲田君は、国立の医学部を目指している。しかし、喧嘩の日々が続き、成績はドンドンと落ちて行く。

 改心して、勉強すると、一気にトップとなるが…。喧嘩相手は、また挑んでくる。また、成績は下降する。そのうち、学校一の問題児となり退学となってしまうのだ。

 

 私はそれまで、読書は一日30ページが限界だった…。ところが、面白過ぎて徹夜で二冊を読み切ってしまった。

 

 彼は、色々な高校を何度も退学、入学と繰り返す。最後はやっと卒業するのだが、大学へは行かず塾の先生となり、ダメな生徒の成績を驚異的に伸ばして行く。

 

 つまり、稲田氏は教え方が上手いのだ。これは、文章からも良く分かる。読書嫌いの私が一気読みできる程、分かりやすく、スピーディーで飽きさせない力がある。

 塾の生徒の成績が上がるのはうなずける。しかも、不良の気持ちが分かるから、学校が見離したヤンチャな生徒も見捨てないのだ。

 

 私の文章には、今もどこかに「高校放浪記」のリズムがあると思う。

 

 そして、もう一つ。

 展開のバカバカしさは、春風亭柳昇師匠の著書「与太郎戦記」「与太郎戦記ああ戦友」「陸軍落語兵」のパターンを意識している(こちらは、30才過ぎてから古本で読みました)。

 実は、この柳昇師匠の本も、スラスラと読めて飽きない面白さは圧倒的である。

 

 この両者の書きまわしのリズムは、コラムにピッタリなのだ。

 

 「与太郎戦記」は何度も映画化された名作だが、「高校放浪記」の方は、漫画の「ガクラン放浪記」の原作となった(近年、古本で購入)ぐらいで、映画やドラマにはならなかったと思う(「地獄塾奮闘記」というその後の本もある)。

 

 私の中では人生最高の作品なのだが…。世間の評価はどうだったのだろうか?

 

 

 

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