放送業界のお話と落研と私的な思い出

放送関係。業界のエピソードと近所の出来事

嘘だろう?!業界ドキュメント・青春ドラマみたいな思い出日記!

 私が二十代の新人放送作家の頃。某地方局のディレクターAさんには色々とお世話になった。

 

 初めて会議に出て、その場で来週の台本を書くことになったのだが…。私は、司会の挨拶から筆が進まなかった。普通は、〇〇(挨拶)でも良いのだが…。ここに、他の作家と違う一言を入れたいと思ったのだ。

 (挨拶)だけでは、他の作家と同じでオリジナリティが無いと感じたからだ。しかし、その「気の利いた一言」が全然浮かばなかったのだ。

 今なら、ネットでタレントの趣味や出身校など調べて情報が分かるのだが、携帯も無い時代。しかも地元のタレント。なにも、本人の手がかりがないのだ。

 

 私は一行目が書き出せないまま、数十分悩んでいた。

 

 すると、Aさんは「お前、今日は飲みに行け!後は、俺が書いとく」と言って、タクシーを呼んでくれた。普通なら「早くしろ!」と怒鳴られるところだが、この人は新人を何も咎めなかった。

 心の中で「力入り過ぎだから、今日は帰れ! 来週から頼むぞ!」と言う声が聞こえた。

 呆れて見離されることはあるが、この手の温かさで新人を育てようとするスタッフと初めて出会った瞬間である。

 

 このAさんとは、番組の会議終わりに何度も飲みに連れて行って頂いた。

 ある日。会議後、朝まで飲んだ時事だ。

 「小林!うちに泊まれ!」

 「ああ、行きます」

 私は局の用意してくれたホテルをやめて、Aさんのマンションに泊まった。この時、Aさんは独身で、部屋に鍵をかけないことで有名な人だった。

 訳を聞くと「鍵を無くした時、入れないから」と、凄い答えが返って来た。

 

 部屋には札や小銭が落ちていて、どこに何があるか分からない。

 

 朝の五時頃。布団を敷くと、Aさんが言った。

 「お前は、適当に寝とけ! 俺は、仕事する」

 

 ウイスキーをグラスに注ぐと、ストレートで飲みながら、明日のロケの絵コンテを書きだしたのだ。

 簡単なVTRのロケなのだが、その絵は映画の絵コンテの様。レポーターを撮るカット割りまでしているのだ。

 芸術大学出身のAさんは、その絵のレベルも高い。私には、黒澤明の絵コントを見る様に輝いて見えた。

 

 そして、Aさんは数時間後。

 「俺はロケ行くから、お前は勝手に寝て好きな時間に帰れ! 鍵は開けたままでいいから!」

 

 私は衝撃を受けてしまった。もし、私なら…。明日、ロケがある時は朝まで飲んだりしないし、行くとしても仮眠してから出かける筈だ。

 プロの業界人の情熱の凄さを見せつけられた思いだった。

 

 別の日のことだが、Aさんの家で寝ていると、布団から煙が出ていた。見ると電気ストーブの火がAさんの布団に引火していたのだ。

 私は驚いて「布団! 燃えてますよ!」と起こすと「おっ! まずいな!」と布団を叩いて火を消すと、また、寝てしまった。

 「布団、まだ、くすぶってますよ!」

 「大丈夫!また、燃えたら消す!」

 

 そして、ストーブの位置を離そうともしなかった。

 

 Aさんは根っからの大物だ。細かいことは気にしない人なのだ。私は、そこがこの方の魅力であると感じていた。

 

 ある日。会議の後。Aさんの家で飲むことになった。そこで、Aさんは

 「先に、うち行っててくれ! 俺は一つ仕事してから帰るから。鍵は開いてるから!」

 

 私はタクシーでAさんのマンションへと向かった。そして、部屋を開けようとすると…。何と! 誰かがシャワーを浴びている。

 Aさんは独身の一人暮らし。いったい誰が中に居るのだろう? 私は思い切って

 「すいませ~ん! 私、小林と申しますが、ここ、Aさんの部屋ですよねー?」

 と言ってみた。すると…

 「は~い! そうですよ~!」ガチャ!

 

 何と! 中からバスタオルを巻いた女性が出て来た。しかも、相当な美人である。

 私の頭の中は疑問で渦巻いた。この人誰だ?

 

 Aさんに妹が居ると言う話は聞いたことがないし、彼女なら今日は来ないだろう。Aという名前を知っているのだから、知らない人ではなさそうだ。

 

 頭の中が「?????」で一杯の私に、その女性は「どうぞ、入って下さい! お飲みになって!」と冷蔵庫から缶ビールを出して渡してきた。

 

 「いや! あの~! Aさんと部屋で飲むことになって、私だけ先に来たんです」

 「そうですか! はい! 飲んで!」

 「いや!」

 

 益々、疑問は大きくなった。風呂に入り、冷蔵庫の缶ビールを飲む。どう考えても彼女である。しかし、それならAさんは私と部屋で飲むとは言わない筈だ。

 

 この時。私は青春ドラマ「俺たちの旅」を思い出していた。こんなこと、ドラマでないとありえないからだ。居る筈の無い美人女性が突然現れるなんて、ドラマなら原田美枝子檀ふみの役どころだ。

 となると、Aさんは中村雅俊、私は田中健である。

 

 私は「あなたは、どなたですか?」と言う言葉が言えなくて、世間話などをしていた。こうなると、キャバクラと変わらない。

 会話の内容から糸口をつかもうとするのだが、彼女は何も関係性を語らないのだ。

 

 まさか、不法侵入の泥棒? いや、それにしては大胆すぎる。Aさんが帰る前に逃げる筈だ。

 

 私が心の中でパニックになっていると、電話が鳴った。私が出るとAさんである。

 A「悪い! 仕事長くなっちゃって…、後、三十分で帰るから冷蔵庫のビール飲んでて!」

 私「あの…。知らない女性がいるんですが?」

 A「何それ? 誰?」

 私「知りませんよ! 私が入ったらシャワー浴びてました」

 A「知らないぞ! チョット代わってくれ!」

 

 すると、女性は親しそうにAさんと話していた。「じゃあ、小林さんに代わります」

 

 私「誰ですか?」

 A「いや~! 驚いた! 大学の同級生だよ! 最近、実家を家出して、お母さんが同級生の家を探していた女だよ!おれにも電話はあったけど…うち、くるか~?」

 

 Aさんは、すぐにタクシーで帰って来た。三人の飲み会は盛り上がり、そのまま、川の字になって寝た。本当に青春ドラマみたいだ。

 私は、心の中で「人生って色々あって面白いな~!」と満足していた。

 この日。Aさんの部屋で飲むことになったのはミラクルである。いつもの様に、店で飲んで居たら、こんなドラマは見られない。

 

 私は面白いことに遭遇する運があるのだと思った。

 

 翌日、Aさんが女性の親に連絡して、この騒動は収まった。しかし、あの美人が「家出」した理由は何だったのだろうか? 

 

 彼女はAさんが部屋に鍵をかけないことを知っていた様だ。多分、学生時代から鍵をかけない人だったのだろう?

 

 Aさんは数十年後、取締役になる凄い人である。やはり、出世する人は、人とどこか違うようである。

 

 

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