まだ私が二十代前半の新人放送作家の頃。ラジオで新作映画を紹介するコーナーを担当したことがある。
試写会を見て、その内容を紹介する原稿を書くのが仕事である。その作品の中には「ターミネーター」(一作目)や「コクーン」も有った。
「ターミネーター」を観た時は、面白いが「くどい」と思った。
最後にやっつけた筈のターミネーターが、骨格だけで攻めていくるシーンで「もう、いいよ!」と思ってしまったのだ。
「面白いけど大ヒットは無いな!」と思っていたら、世界的なヒットとなった。
当時はシュワルツネッガーさんも新人。私は初めて観る役者さんだった。私には映画を観る目がないのかもしれない。
「コクーン」は素直に面白いと思ったが、こちらは、世界的には「ターミネーター」程ではなかった。
同じ頃。「グーニーズ」の試写会が行われた。子供たちが活躍する冒険映画である。
ディレクターが言った。
「グーニーズ」に出演した役者のインタビューが出来るから、帝国ホテルで取材してきて」
新人の私がハリウッドスターの取材などして良いのだろうか?恐る恐る帝国ホテルへと行くと、そこは記者会見ではなく普通の部屋。
スターの家族も一緒に居る空間に、日本のマスコミ各社が来ていた。新人の作家が只一人で来ているのは私の番組だけだ。
そこに居たのは、キー・ホイ・クァンとジェフ・コーエンの少年二人だった。
キー・ホイ・クァンは映画の中で中国系の少年・いじめっ子を撃退する発明をする賢い子。後に彼は「インディージョーンズ」にも出演した。
ジェフ・コーエンは太った友達の役だ。
二人は小学生で帝国ホテルの最高級の部屋。私は世田谷の風呂なし四畳半のアパートから取材に来ていた。その貧富の差は莫大だ。
私はビビって何も聞くことが出来ない。
まわりのテレビクルーは、有名なリポーターを使って、ガンガン質問を浴びせている。無名作家の私が入るスキなどないのだ。
私は、誰かがする質問の答えをメモするだけだった。
取材時間が終わりマスコミが去る時。キー・ホイ・クァン君が私の近くを通り過ぎた。すると、私に手を差し出してくれた。私も手を出すと握手してくれたのだ。
多分、キー・ホイ・クァン君は何も質問できなかった私を可哀そうに思って握手してくれたのだろう。流石はハリウッドスターだ。小学生なのに気遣いが出来るのだ。
ラジオの「グーニーズ」の紹介では、つい、キー・ホイ・クァン中心の情報を書いてしまった。新作映画情報なのに「小学生ながら握手をしてくれる人格者だった」など、余計な情報を入れてみた。
その原稿を見たスタッフが言った。
「これ、書いたの誰?」
「やばい! 怒られる!」(心の声)「私ですけど…」
「良いね~! 生で本人に会った感想なんて他じゃやってないよ!」
「うおおおお~!セーフだ!」
質問は一つもしていないのに、唯一の接触・握手のことを伝えたら褒められてしまった。
キー・ホイ・クァンは、私が握手した只一人のハリウッドスターである。彼も立派だが、私も今は風呂付3LDKに住んでいる。出世したものだ(賃貸だが…)。
私は作家界のブータン国だ! 幸せの尺度が皆さんと違う様だ。
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