放送業界のお話と落研と私的な思い出(瞳尻・黒舟)

放送関係。業界のエピソードと近所の出来事

東海大落研後輩の反乱!

 昭和55年~57年頃。東海大学落語研究部の部室には、いつも頭下位亭楽陳(とうかいてい らくちん)さんと言うOBが居た。

 

 私より6年も先輩だが、当時は会社を辞めて毎日部室に来ていた。この楽陳さんは、とても頭が良く機転が利く。キャンプなどの仕切りや文化祭の準備に絶大な腕を見せてくれるスーパーOBだ。

 

 この人は、現役時代・寄席文字の担当で、橘流寄席文字をプロ級の腕で書いてくれる。

 さらに、文化祭の客席に畳敷きの桟敷席(新宿末広亭風)を造り、末広亭と同じ開閉式の下駄箱まで作ってくれるのだ。たった一人で、拾ってきた竹で手すりを作り、リヤカーで部室の畳を運ばせて、みごとに仕上げていた。

 

 楽陳さんは、威厳を示すのが好きで、何かあると

 「切奴!(きりど・現・昇太師匠)俺とお前とどっちが落語が上手いんだ?」

 「(身を正して)先輩です」

 と言うやりとりをしていた。

 

 我々後輩は、「この先輩は学生落語日本一になった切奴さんより上手いんだ!」 うちのOBは凄い! と関心していた。

 

 後に、これは先輩が上下関係を主張する為の定番ギャグだと知るのだが。この時の後輩は丸々信じていたものだ(先輩の言葉は絶対の東海大後輩は騙しやすい)。

 

 当時、楽陳さんは文化祭に全て参加していた。5日間あったと思うが、その毎日、疲れた部員を連れて夜中まで飲んで騒ぐのだ(失業保険を使っていた)。

 

 これは、1日、2日は我々も楽しいのだが、3日以降は疲れがピークに達する。

 しかも、楽陳さんはお酒を後輩につぐ時、断ろうとすると「手が重たいな~! 俺の酒が飲めないのか? 優しく言っているうちに…(落語「らくだ」風)」とプレッシャーをかけてくる。

 

 後輩は、疲れた体と眠気に耐え、さらに、アルコールに耐え、「面白いリアクション」もしなくてはいけないのだ(つまらない後輩だと思われるとクラブ内の地位が危ない)。

 

 確か、文化祭の4日目の夜だったと思う。行きつけの飲み屋、小田急相模原の焼き鳥屋「秀吉」で飲んだ後。12時過ぎに店を出た。すると、楽陳さんが「もう、一軒行くぞ!」と言った。

 

 この日は、流石に後輩は眠かった。翌朝も早いし、明日は文化祭の最終日。最後の大きな打ち上げがあるのだ。今日の酒はもうひかえたいのだ。

 

 先頭を歩く楽陳さんの背中を見ながら、一団楽(いちだんらく・1年・現・市会議員)君が私、黒舟(くろふね・2年)に言った。

 「先輩! 明日の為に…逃げましょう!」

 

 ここでは普通、2年生は1年に「甘えるな!」と言うところだが…。私も同じ気持ちだった。「よし! 逃げよう!」。1年の珍笑(ちんしょう・現・コンビニ経営)が言った。

「まとまって逃げると捕まるから、一度、バラバラの方向に逃げましょう!」

私「それだ!」

 

 10人程居た、後輩達の目が輝いた。これは「落研始まって以来の・大脱走」だ!

 「私が合図をした! せーの! 逃げろ~~!」

 後輩「わ~!わ~!」(四方八方に全力疾走)

 

 なんで「わ~! わ~!」言ったか意味は分からないが、そっと逃げるより、先輩に逃げたことを分からせた方が「面白く」感じたのだ。

 

 全員が、逃げる! 逃げる! 私は「大脱走」のスティープ・マックイン。一団楽はジェームズ・コバーン。珍笑はチャールズ・ブロンソンだ! 

 

 我々は、最終的に一団楽君のアパートで眠った。明日の最終日に高座でウケる夢をみながら、みんな笑みを浮かべながらよだれを垂らしていた(かもしれない)。

 

 そんな、深夜三時頃。階段を上がる誰かの足音がした。コツッ! コツッ! 二階の一団楽君の玄関のドアが開いた。楽陳さんだ。

 私は薄目を開けて寝ているふりをした。今から飲みたくはないからだ。

 

 すると、楽陳さんは小声で我々の人数を数えた。そして、「全員いる!…よかった~~!」と独り言を言った。

 

 我々はゲーム感覚で逃げて楽しんだのだが、当の楽陳さんは「逃げた後輩に、もしものことがあったら自分の責任だ」と思って、全員の下宿を訪ねて探していたそうだ。

 ここを見つけるまでに、徒歩で4、5カ所回っていたようだ。どこにも、居ないので、心配がピークになっていたらしい。

 

 楽陳さんは安心すると、そのまま静かに後輩を起こさない様に去って行った。

 

 東海大落研の先輩は、シャレはきついが意外と優しい常識人である。

 楽陳さんが、映画の時だけいい奴になるジャイアンに見えた。のび太達は安心してグッスリと眠った。

 

 そして、翌日。楽陳さんは何事もなかったかの様に理不尽だった。我々も何事もなかったかの様にふるまった。

 

 嵐の様な文化祭は終わった! そして、焚火の前でみんな意味もなく泣いた! 達成感の大切さを知った青春の一コマである。

 

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