放送業界のお話と落研と私的な思い出(瞳尻・黒舟)

「嗚呼!青春の大根梁山泊~東海大学・僕と落研の物語」スピンオフ・エッセイ。放送関係。業界のエピソードと近所の出来事

超大物プロデューサー登場!

 小田急線の経堂駅周辺に住んでいる時。一流放送作家の私は、駅前の「千円カット」に通っていた。

 

 私が順番待ちをしていると、今、座ったばかりの男が女性の美容師さんに話しかけた。

 「美容師さん、芸能界って興味あるかな?」

 「ええ! まあ!」

 「僕、業界でプロデューサーやってるのよ!」

 口調はドラマに出て来るインチキプロデューサーそっくり。高田純次さんあたりが演じている役の様だ。

 

 私は、すぐに、この男がニセモノだと分かった。

 聞かれる前に「俺、プロデューサー」と言うプロは居ないからだ。

 

 これは、面白い。聞き耳を立てて楽しむことにした。

 

 「僕さー! あの子なんか、良く面倒見てるのよ! 松島の奈々子ちゃん! 知ってる? 女優の!」(ドラマ「やまとなでしこ」が放送されていた頃だった)

 今度は友近演じる演歌歌手の様なセリフである。

 「あの子、良い子だよね! 後、仲が良いのは、ユーのミンちゃん! 松任谷ちゃんね!」

 おおおおおー! 私も業界は長いが「ユーのミンちゃん」という言葉は初めてである。

 面白いぞ! このオヤジ!

 

 二十代の美容師さんも、流石にインチキと気づいた様で会話に合いの手を入れるのをやめた。

 しかし、この男の喋りは止まらない。

 「僕、もう、業界長いからね~! 昔は、キラアーの沢黒ちゃん(黒澤明)の「イムラサのニンシチ(七人の侍)」のセットなんか手配して大変だったよ!」

 

 この男、どう見ても四十代。そんな奴が、黒澤さんと仕事などしている筈がない。大体、そんな凄いプロデューサーが「千円カット」に来るはずがないだろう! 俺は行ったけど…。

 

 「あれ? キアラ―分かんない? 黒澤の明ちゃんだよ!」二十代の美容師さんが言った。「黒澤って誰ですか?」

 おおおお~! 流石は我慢を知らない二十歳の娘。一言でインチキ男を玉砕してしまった。

 

 ちなみに、この男の服装は作務衣。大物プロデューサーと言うより陶芸家の様だ。どうせ嘘をつくなら服装にも拘って欲しかった。

 

 男は、美容師に相手にされないと悟ると、「そろそろ、カメリハだ!」と叫ぶと、足早に去って行った。

 

 次は私の番だ。椅子に座ると二十歳代の美容師が言った。

 「お客さん、仕事何やってるんですか?」

 「フリーターです」

 

 これが、正しい業界人の答え方だ。

 

 私はここ十年、自分で髪を切っている。「千円カット」の手順を見ていたら、坊主に近い短髪は誰にも出来ると分かったからだ。二千円の電動バリカンで簡単にできるのだ。

 もう、大物プロデューサーに会うこともないだろう?

 

 今回は「業界の話」でも「落研の話」でもありませんでした。

 

 この文章そのものが、インチキ詐欺である。

 

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