放送業界のお話と落研と私的な思い出(瞳尻・黒舟)

「嗚呼!青春の大根梁山泊~東海大学・僕と落研の物語」スピンオフ・エッセイ。放送関係。業界のエピソードと近所の出来事

ドラマみたいな女性作家➁

 生活全てが異次元の女性放送作家Aさんと、小田急線の経堂駅近くにあった「あさひや」という軍隊帰りのお爺さんがやっている小さな店で待ち合わせしたことがある。

 

 私は少し遅刻してしまった。お店に入ると、カウンターにAさんが居るのだが…。隣にロマンスグレーの格好いい男性が居て話が弾んでいる。誰だろう?

 

 私が合流して右隣に座ると(ロマンスグレーの男性は左隣)、Aさんが小さな声で耳打ちしてきた。

 「「探偵物語」の監督って根岸吉太郎だっけ?」

 「確かそうだけど…自信ないな!」

 

 すると、Aさんがロマンスグレーに言った。

 「あたし、日本映画で一番面白かったのは「探偵物語」だな!」

 「えっ! そうなの、俺の作品だよ!」

 

 私「えええ~!」(心の声)

 よく見ると隣の紳士は、根岸吉太郎監督だった。

 

 このAさんは、何かオーラがあって、普通に飲んで居るだけで、こんなことが起る。聞くと、たまたま、隣に座ったら監督で話しかけられたと言う。人生の引きが凄い人なのだ。

 しかも、根岸監督の映画が思い出せなくて、半分うろ覚えの勘で「探偵物語」と言ったのだ。この得点感覚はマラドーナ級である。

 

 私も紹介されて挨拶だけはしたが、ほとんど、二人で盛り上がっている。

 そのうち、Aさんは「先日「羊たちの沈黙」(封切したばかり)を観て面白かった!」と根岸監督に言った。すると…。

監督「あれはねー! 一度観る分には面白いけど、何度か観るとアラが分かる作品なんだよね!」

 

 流石はプロの監督らしい言葉である。私が感心していると、Aさんが激しい口調で言った。

 Aさん「何言ってるんですか! 普通の人は一回しか観ないんだから、一回観て面白ければ、良い映画なんですよ!」

 私「えええ~! 監督に映画の話で説教かよー!」(心の声)

 

 監督「う~ん!…確かにそうだね!」

 私「うおお~~! しかも監督が納得した~!」(カイジの様な心の叫び)

 

 根岸監督は「遠雷」で日本アカデミー賞もとっている人である。映画の素人が映画で論破するなんて、前代未聞である。

 

 その後。私は監督が「NHKの新人落語コンクール」の審査員をやっていたのを思い出した。

 私「根岸さん、落語の審査員してましたよね? 落語好きなんですか?」

 監督「全然知らないんだけど…。俺、浅草・木馬亭の息子だから、局が頼んできたんだよ! でも、あの時、優勝した竹丸さんは面白かったよ!」

 

 竹丸師匠は、私もお世話になっているので、チョット嬉しかった。

 三時間ぐらい店に居たが、私が監督と会話したのはこれだけである。

 

 Aさんは監督と最後まで盛り上がると、帰って行った。「あれ?」私に何か話が合って「飲もう」と言った筈なのに。今日の待ち合わせは、何だったのだろう?

 

 Aさんは、その後、根岸監督にプロモVの仕事を貰ったという。凄い営業力だ! 私の様な「おとなしい」人間にはとても勝てない。

 

 Aさんは昔、霊能力で有名なGさん番組をやったことがある。GさんはスタッフのAさんに近づくと…。

 「あなたの、守護霊は宮沢賢治よ!」と言ったという。スタッフが驚く中。Aさんは冷静に言った。

 A「親戚なんです! 何で分かるんですか?」

スタッフ「えええええええ~!」

 

 Gさんも凄いがAさんも凄い! 私の様な専売公社の父では、家柄が「トリプル役満」と「ピンフ」ぐらいの違いである。

 

 それを聞いた私は、Aさんの肩のあたりに手を出して、守護霊さんの宮沢さんと握手してもらった。少しでも「運」を貰いたいものである。

 

 人生は「もってる人」には勝てないものなのだろうか? 神様も大学の先輩の様に理不尽だ!

 

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