放送業界のお話と落研と私的な思い出(瞳尻・黒舟)

「嗚呼!青春の大根梁山泊~東海大学・僕と落研の物語」スピンオフ・エッセイ。放送関係。業界のエピソードと近所の出来事

「バック トウ ザ フューチャー」思い出…

 テレビで「バック トウ ザ フューチャー」を放送していた。見ていると、新人の放送作家の頃のことを思いだした。

 

 私の師匠Мは、当時、業界を代表する売れっ子。誰もが知る大きな番組を何本も抱えていた。その一本に、公開コント番組のKがあった。

 師匠のМが私に言った。

 「昨日、スピルバーグ映画の日本初の試写会があってな。「バック トウ ザ フューチャー」ってのは面白いぞ! スピルバーグの才能は半端じゃない! 本物だ!」と、鼻息が荒い。

 映画の内容や登場人物の名前などを一通り説明してくれた。時代を超えたギャグの入れ方が最高だという。確かに面白そうだ。「封切されたら、絶対観よう」と思っていた。

 

 すると、師匠Мが言った。

 「内容、分かったな! 明日までにパロディーコント書いてこい。マーティー役はМだ。アシスタントにKが出る」

 Мとは当時のトップアイドル。Kとは大物女性歌手で、コントが上手いことで知られている。サブではコメディアンのRSも出ている。

 

 この映画は日本初の試写会を終えたばかり。つまり、私が観る方法はない、私は設定だけ聞いて、観てもいないパロディーを書かねばならないのだ。

 しかも、このコントはゴールデンで放送されるものなのだ。

 

 師匠の言葉は絶対である。私に断る権利はない。とにかく、聞いた話だけを元に書き上げた。師匠のTが何カ所か直していたが、なんとか採用となった。

 

 ところが、収録の日も放送日も「バック トウ ザ フューチャー」は封切り前。

 出演者も見たことのないパロディーをやることになってしまった。

 

 私は放送をチェックしたが、やはり、会場の反応はポカンとしていた様だ。

 

 師匠が言った。「チョット、早すぎたな!」。当たり前である。

 

三か月後ぐらいだろうか。私は「バック トウ ザ フューチャー」の封切日の朝一番の上映を観に、有楽町マリオンへと行った。

 すると、あまりに面白くて驚いた。伏線と回収の上手さも天才的である。

 

 しかも、私が一番驚いたのは、客が笑いまくっている事だ。まるで、人気漫才師が目の前でネタをやっている様なウケ方なのだ。そして、映画が終わってデロリアンが飛び立った時。会場のみんなが立ち上がって拍手をしたのだ。ほぼ全員が立って拍手している。私は日本の映画館でこんな光景を見たのは初めてである。

 

 あのコントも上映後に放送すれば、もっとウケたはずである。

 

 翌週、あの人気番組「オレたちひょうきん族」の「タケちゃんマン」で江戸の悪徳商人が登場する「バック・トウ・ザ・富有知屋(ふゆちや・漢字は不明)」と言うコントをやっていた。タケちゃんマンがタイムスリップして江戸を救うという設定だ。悪代官が「富有知屋!お主も悪よのう~!」などと言って爆笑をとっていた。

 

 はっきり言って、この時、私は「負けた!」と思った。

 

 元が分からなくてはパロディーは成り立たない。なんとも、当たり前のことを学んだ瞬間である。新人の私も甘いが、売れっ子の師匠も痛恨のミスである。

 

ちなみに、この時の話は「笑論」(バジリコ)で執筆しています。同一人物なのでパクリではありません。 この本。ネットでまだ買えるかもしれませんよ。

 

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