放送業界のお話と落研と私的な思い出(瞳尻・黒舟)

「嗚呼!青春の大根梁山泊~東海大学・僕と落研の物語」スピンオフ・エッセイ。放送関係。業界のエピソードと近所の出来事

新幹線で…。前回の続き

 名古屋駅でミュージシャンの中野督夫さんと別れた後。新幹線に乗ると、激しい吐き気に襲われた。徹夜で飲み過ぎたのが原因である。

 

 あまりに苦しいので、洗面所に行ったが胃の中はカラで何も出てこない。この何も胃に無い時の吐き気はくせ者である。やたらと不快感が強く、その場に座り込んで耐えていた。

 

 すると、若い女性の声がした。

 「お客様! 大丈夫ですか?」

 JRの職員が心配して声をかけたのだ。

 「あの、二日酔いなんで寝れば治るので、大丈夫です」

 「横になれる部屋がありますが、いきますか?」

 「いや、二日酔いなんで…」

 「大丈夫ですよ。そういう時の部屋がありますから」

 

 あまりに勧めるので、お言葉に甘えて、部屋に連れて行って頂いた。

 すると、驚いた! 横になれる畳のような小部屋で大きな窓から景色が良く見える。しかも、ミネラルウォーターのペットボトルを差し出して「お飲み下さい」と言うのだ。

 

 思わぬビップ待遇に、私が喜んで横になっていると…。車内放送が流れた。

 「〇号車で急患のお客様がいらっしゃいます。車内にお医者さんか看護師さんはいらっしゃいませんか?」

 おいおい! 絶対、俺のことじゃないか? だから、「二日酔い」だと言ったのに!

 

 すぐに、バタバタという足音がして部屋のドアが開いた。

 「今、お医者様を探してますから」

 「だから、二日酔いなんで大げさにしないで…」

 

 そこに、かけつけた男女が居た。

 男性「私、医師です」

 JR職員「ちなみに、どちらのお医者様ですか?」

 男性「〇〇病院(東京の有名な病院)院長の〇〇です」

 女性「看護師の〇〇です」

 

 これは、大変なことになってしまった。しかも医師が大物である。とても「ただの二日酔いです」と言える空気ではない。

 

 看護師が私の脈をとると…

女性「先生! 脈が弱いです」

 私は子供の頃から、脈が取りにくいと医者に行くたびに言われていた。それは、普通なのである。

女性「あっ! 脈が弱いのに、早いです」

 こらこら! それは、今、あんたらが来て動揺したから、ドキドキしているのだ。

 

 すると、院長先生は言った。

 「これは…、危険です。救急車呼んで下さい」

 「チョット、待って下さい! 大丈夫ですから」

 「いや! 大事をとった方が良い!」

 えっ!…二日酔いなのに…。

 

 JR職員「連絡、取れました! 新横浜駅に救急車を呼んでます」

 私「あの、ここまで来たら東京まで行きたいのですが…」

  実は、私はこの後、世田谷で打ち合わせがあったのだ。

 

 職員「ダメです! 新横浜で降りてもらいます」

 仕方がなく、私が立ち上がると…。

 「車いすに乗って下さい」

 「いえ、自分で立てます」

 「ダメです! 救急車に乗る人は車いすという決まりがあります」

 

 そこまで、言われては仕方がない。私は車いすに押されて、降車することになってしまった。通路を通る車いすに車内中の注目が集まる。この恥ずかしさたるや無い。

 

 しかも、通過する車両に、名古屋駅でハイテンションで会話した、ミュージシャンの中野督夫さんの姿もあった。私は顔を隠したが、中野さんは不思議そうな顔で見送っていた。こんなことなら、あんな部屋に行くんじゃなかった。

 

 新横浜駅を降りると、駅員さんに引き継がれ職員の部屋のソファーに寝かせてくれた。元気そうな私の顔を見て「本当に救急車呼びますか?」と聞いた。良かった~! まだ呼んでいなかったのだ。

 「二日酔い、なんで、チョット寝かせてもらうだけで良いです」

 「そうですよね~!」

 「帰る時は声をかけて下さい」

 一時間程すると、私は完璧に元気を取り戻した。職員に告げて、次の打ち合わせへと向かったのでした。

 

 とは言え、JRの職員は悪くない。かつて、同じようなケースで大事に至ったことがあるのかも知れない。かけつけてくれたお医者さんも看護師さんもありがたい限りである。 

 

 深酒はいけません。と心に誓う私であった。

 

 ちなみに、この後の世田谷での打ち合わせは、元・フォークダンスDE成子坂の桶田君とのものだった。

 遅刻したので、さっきの新幹線の話をすると、敬太郎君「小林さん、作ったでしょ? そんなに面白い話、ある訳ないでしょ!」と言っていた。

 

 しかし、私は何一つ作っていない。事実をそのまま伝えただけだ。

 

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