放送業界のお話と落研と私的な思い出(瞳尻・黒舟)

「嗚呼!青春の大根梁山泊~東海大学・僕と落研の物語」スピンオフ・エッセイ。放送関係。業界のエピソードと近所の出来事

柳好師匠と、またも…

  世田谷区経堂に住んでいる時。いつもの様に駅前で酔っぱらった春風亭柳好師匠と会った。

 「小林さん、一軒飲みに行きませんか。ヒャ~ヒャッヒャッ、ヒャ~!」

 

 ここまでの会話は、一年中、いつ出会っても変わらない。柳好師匠はぶれない性格なのだ。

 駅前のとあるお店に入ると、いきなり、常連さんが私に近づいて来た。満面の笑顔で、私の顔を見ると…。「あなた、人殺した顔してるね!」。

 オイオイ! 流石は柳好さんの馴染みの店。いきなりの洗礼である。満面の笑みで最低の言葉を発するところが、ただ者ではない。しかも、この男はしつこくて、トイレに立つたびに、わざわざ私の隣に来て「人殺してる顔だね!」と言ってくる。

 

 「あの人は、何なんですか?」と聞くと、柳好さん「ヒャ~!ヒャッヒャ~!あの人はいつも、あんなこと言ってるんで、町中の飲み屋出禁になってるんです。気にしないで下さい。歯科技工士です」。

 歯科技工士はどうでも良いが、町中の出禁を受け入れるとは、なんと心の広いお店なのだろうか? この店は、感じの良いご夫婦がやっていて、旬の料理も食べられるし、値段も安い。しかし、客層にクセがあるという、柳好さんの最も得意とするお店だった。

 

 このお店に、ある日。私と柳好さんと昇太さんで行ったことがある。昇太さんが

 「柳好! 何に飲む?」と聞いていると、あるお客さん(年配の男)が近づいてきた。

 「こら、あんた! 失礼な言い方するな! この人は大変な師匠なんだぞ! 柳好師匠と呼びなさい!」

 何と! 昇太さんが怒られてしまったのだ。皆さん、ご存知の通り、昇太さんは柳好さんの兄弟子である。ここの客は落語界のことを何も知らないのである。昇太さんは若く見えるので、後輩が生意気な口をきいた様に見えたのだろう。

 

 「ヒャ~! ヒャッ! ヒャ~! 兄さん、すいません!」

 「お前の行く店は、いつもこうだな?」

 「ヒャ~! ヒャッ! ヒャ~!

 

 飲んでいると、さっきの男が焼酎のボトルを持ってやってきた。

 「お前ら、俺のボトルを飲め! でも、礼儀はしっかりしないとな!」

 

 男が去った後、昇太さんが言った「俺は、絶対飲まないぞ!」

 「ヒャ~ッ! ヒャッヒャ~! 私が頂きます」

 「じゃあ、僕も頂きます!」

 

 昇太さんが先輩であることは、誰も教えぬまま、飲み会は続いた。

 

 柳好セレクトの店に外れはない。ヒャ~! ヒャッヒャ~!

 

 

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