放送業界のお話と落研と私的な思い出(瞳尻・黒舟)

「嗚呼!青春の大根梁山泊~東海大学・僕と落研の物語」スピンオフ・エッセイ。放送関係。業界のエピソードと近所の出来事

マンションと警察と昇太師匠

 私が昇太師匠に紹介された世田谷のマンションに住んでいる時。

 突然、警察官が訪ねて来た。

 「あなたと同じ車種の車が、渋谷でひき逃げしまして、車を調べさせてもらえますか?」

 「いいですよ!」

 

 これは、明らかに私が容疑者である。当時、中古のクレスタに乗っていたので、警察が車種を調べて訪ねてきたのだろう。私は「玄関出て、右に行って、すぐに左の駐車場です」と教えると、警官が血相を変えて帰って来た。

 ドンドン!「小林さ~ん! 車、ないじゃないか~!」

 「えっ! そんなわけないですよ! どこ見たの?」

 「出て左の駐車場だ!」

 「だから、右に行って、すぐ左だって!」

 「あら! これは失礼しました!」

 

 確認して帰って来た警官は、急に笑顔で「何もぶつかった後はありませんでした!」

 「渋谷のひき逃げで、世田谷まで捜査するんですね?」

 「いえ! 本当は、そこの交差点でひき逃げがあったんです」

 「おいおい! さっきのは嘘かよ!」

 

 多分、警官は少し違うことを言って犯人の反応を見るのだろう。しかし、容疑者にされた私としては、複雑な気持ちだ。

 

 数年後。「駐車場荒らし」にあったことがある。一応、警察に知らせてみた。その翌日、夜中に私が車に近づくと警官が疑いの目で話しかけて来た。

 「旦那さん、こんな時間にお出かけですか?」

 「そうですよ!」

 「これ、旦那さんの車?」

 「そうです」

 「ああ、そうでしたか!最近、車上荒らしが起きてますので、気を付けて下さい」

 「こらこら! 被害にあったのは俺だよ!」

 

 この話を昇太さんに言うと、ゲシャ!ゲシャ!笑って喜んでいた。

 「お前は、仕事も怪しいし、生活は不規則だし、服装もチャンとしてないからだよ!」

 それは、あなたも同じである。と言う気持ちをぐっとこらえて、聞き流すことにした。

 

 数日後。私が家に帰り、ドアを開けると…。何と! タンスの引き出しが全部開いている。これは、もしかして…。あのコソ泥というやつではないだろうか?

 見るとベランダのガラスが割られていた。

 

 私は、ワクワクしながら警察に電話した。何故なら、現金を置いていないので何も盗まれなかったからだ。

 

 すぐ、警察が来たのだが。アサダ二世(寄席の奇術師)みたいな怪しい声で、

 「ああ~! やられちゃいましたね~! 旦那さんは何やってる方ですか?」

 「放送作家です」

 「ええ! 珍しいですね~! どんな番組やってるんですか?」

 大きなお世話である。この警官は世間話ばかりして、何も捜査を始めないのだ。

 

  三十分程すると、刑事らしき人と鑑識らしき人が到着した。

 「では、皆さんに状況を説明して下さい。私はここで!」

 初めに来た警官は、担当者が来るまでのつなぎ役の新人だったのだ。

 

 鑑識らしき人が、指紋をとる粉をタンスに付けている。「おお~! ドラマで見たやつだ~!」。さらに、警察が床に靴の足跡を発見した。そこに、特殊な紙を貼ると、キレイに靴型が取れてメーカーまで分かるそうだ。

 私は全ての捜査が面白く、興味深々である。

 すると、刑事風の人が言った。

 「アダルト・ビデオはありませんか?」

 「何?」

 「ビデオデッキに、入れてなかったテープは入ってませんか?」

 「それなんですか?」

 聞くと、犯行先でエッチビデオを見つけて鑑賞する奴がいて、テープから指紋がとれるケースがあるそうだ。

 どんな職業にも色々なノウハウがあるものだ。残念ながら我が家にはエッチビデオは置いていなかった。

 

そこに、異変に気付いた昇太師匠がやってきた(この時は、同じマンションの三階に住んでいた)。

 「おっ! 小林! ドロボーか? いくら盗られた?」

 「現金、置いてなかったんで、盗られてないんです」

 「お前は、ドロボー一つとっても、俺に勝てない奴だな! 俺が入られた時は、数十万やられたぞ!」

 そんな勝負に勝ってどうする。負けず嫌いが屈折して理論が変な方向にいっている。

 

 一週間後。警察が訪ねて来た。犯人が捕まったという。百件以上空き巣をしたそうだ。犯人の自供によると「うちで2~3万円とったかもしれない」と言うのだ。

 

 一瞬、落語「花色木綿」のように盗られたことにしようかと思ったが、私は真面目な人間である。素直に「盗られてないです」と罪を軽くしてあげた。

 

 今も私は「警察二十四時」などのドキュメントが好きである。

 

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