放送業界のお話と落研と私的な思い出(瞳尻・黒舟)

「嗚呼!青春の大根梁山泊~東海大学・僕と落研の物語」スピンオフ・エッセイ。放送関係。業界のエピソードと近所の出来事

今の学生落語の大会で審査員をした

 三年ほど前。下北沢の「しもきたドーン」と言う劇場で関東の大学落研の選抜メンバーによる落語大会があった。

 この劇場は、元・フォークダンスDE成子坂の桶田君と、元・中京テレビのプロデューサー・小栗さんが造った手作りの小屋である。

 

 私は、ここで開かれる学生落語の大会の審査員を頼まれた。今の学生がどんな落語をやるのか興味があったので、やることにした。

 

 出演者は、過去に全国大会で決勝まで行った学生ばかり。関東のオールスターを揃えたと言う。演目を見ると、全員が古典落語の演目を出していた。プロのコピーで地味にやる学生なのかも知れない。

 私は審査の時、どこか良い所を見つけて全員を褒めようと思っていた。学生のアラなど探せばきりがない。それより、学生らしい演出などを褒めた方が大会が盛り上がるからだ。

 勝者は決めるが、あきらかな敗者を宣言する必要はないのだ。

 

 そして、当日、学生を観て驚いた!

 演目は古典落語だったが、内容は見たこともないアレンジばかりで、名前だけ古典で内容は新作落語だったのだ。

 

 「死神」を演じた一橋大学の女子学生などは、登場する死神が「魔法死神サリーちゃん」で、古典落語にある「死神」のストーリーすら無視した新作だったのだ。口調も落語口調ではなく、学生らしい。

 そして、客席の落研部員たちが、ひっくり返る程の大爆笑をしている。

 

 他に「今戸焼き」という珍しい話をやった男子学生が居たが、彼はネットで人のやらない噺を検索して「今戸焼き」という演目を見つけ、「まったく内容は知らないがこんな話ではないかと予想して作ってみた」と宣言して落語を始めた。学生の本領発揮とも言える演出である。

 

 私は、どの学生も心から褒めまくることとなった。技術どうこうより、自由で学生らしい。みんな魅力的なのだ。こうなると、優勝者を決めるのがとても難しかった。

 

 甲乙つけがたいので、私の好みは別にして「一番笑いをとった人」を優勝とした。

 

 申し訳ないが、実際は一番上手い学生に賞を上げられなかった。やはり、大会は一発勝負。その場でウケた者の勝ちである。

 

 後で聞いたのだが、この時の学生の何人かはプロの落語家になったそうだ。今、前座修行をしている最中だろう。

 彼らが二つ目、真打となって活躍する日が楽しみである。