放送業界のお話と落研と私的な思い出(瞳尻・黒舟)

「嗚呼!青春の大根梁山泊~東海大学・僕と落研の物語」スピンオフ・エッセイ。放送関係。業界のエピソードと近所の出来事

桶田敬太郎君が突然➅

 元・フォークダンスDE成子坂の桶田君が、突然、言った。

 「小林さん、船舶免許の一級とってくれませんか」

 「ええ~! しかも、一級なの?!」

 二級でも問題ないらしいが、どうせなら一級が良いと言う。しかも、「受験費用は半分僕が出しますから、お願いします」と言う。半分負担してくれるのはありがたいが、仕事しながら勉強などできない。しかも、一級と言えば、テレビでタモリさんが苦労してとったと聞いたことがある。

 

 聞くと、仲間で誰か一人免許を持っていれば、乗り合い船ではなく、チャーターで自由に釣りが出来ると言うのだ。加山雄三さんの光進丸の様な凄い船も借りられると言う。桶田君が言うには「小林さんは大学出てるから大丈夫でしょう」と言う。「ちょっと待ってくれ!」。今時、大卒など珍しくないし、私は付属校から入ったので受験すらしていない。勉強など苦手の極致なのだ。

 

 「断らない男」の私も、流石に今回は断ることにした。

 

 すると桶田君「じゃあ…なんとか頑張って僕がとるんで、半分出してくれませんか?」

 「ああ…良いよ! そうしょう!」

 

 後で気づいたが、これは天才的な交渉術である。私がとりに行けば「受験費を半分出す」というフリが生きている。まさに、コントで言えばたくみな伏線。「仕方がないから、僕がとりましょう」は落ちだ。きっと、桶田君は私が断ることも想定して受験費を半分に節約したのではないだろうか?

 やはり、奴は天才である。あまりに巧みで理論的で一部のすきも無い。私は納得して資金を出しているし、本当に勉強は回避したいのだ。まるで、「薩長同盟」をまとめた坂本龍馬なみの交渉術である。

 

 船舶免許の一級は合宿みたいな研修と試験が一緒になったものがあり、いきなり受けるより取りやすいそうだ。研修の最終日。桶田君から電話があった。「明日、試験なんですけど、難しくて受かる気がしないんですよ! 何か良い暗記法ないですか?」

 私にそんなことを聞かれても、そんなものは無い。

 「落ちても良いよ! それは運だから! 金返せとは言わないよ!」

 「まあ、何とかやってみます」

 

 後日、連絡があった「一級とれました! 高級なマリーナの年会費半分出してくれませんか?」

 「いや、それは勘弁して!」

 

 この時の私は「断る人」だった。

 

 しかし、私はこの桶田君の憎めない人間性が好きだった。何をやっても他の奴とは一味違う、相手の人間性も加味して行動できる面白い男なのだ。

 

 そして、桶田君は他界して免許もなくなってしまった。三途の川はチャーターしたクルーザーで釣りしながら渡ったことだろう。

 

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