放送業界のお話と落研と私的な思い出(瞳尻・黒舟)

「嗚呼!青春の大根梁山泊~東海大学・僕と落研の物語」スピンオフ・エッセイ。放送関係。業界のエピソードと近所の出来事

桶田敬太郎君が突然!②

 私は成り行きで、元・フォークダンスDE成子坂の桶田君とアマチュアバス釣りトーナメントに参加することになった。

 桶田「小林さん、トーナメント用の道具がいります」

 「えっ! そうなの?」

 

 トーナメントには魚にダメージを与えない用に循環式の水槽が必要だと言うのだ。聞くと、五~六万円するという。これは「高いな!」と思う私の心を見透かすように、敬太郎君は言った「作りましょう!」「えっ! 作れるの?」

 

 彼はアイディアマンで何でも自分で作ってしまう。クーラーボックスを買って穴をあけ、ポンプを付ければ簡易水槽が出来るのだ。しかし、穴を開ける工具を買うのがもったいない。そこで、行きつけの店の店員さんに頼んで、クーラーとポンプを買うのを条件に、タダで作ってもらうことにしてしまった。凄い! やはり才能のある奴は全てにおいて頭が良いのである。

 おかげで、一万五千円ぐらで水槽が出来てしまった。

 

 後日、桶田君から連絡があった。

 「コアラも出ることになりました」

 バス釣りトーナメントに、元芸人のコアラ君も参戦することになった。水槽はさらに安く作ったそうである。

 

 トーナメントの初戦。参加者の船を見て驚いた! みんな、プロが使うエンジン船に乗っていた。我々は船舶免許すらないので、モーター式のエレキボートである。

 出発の順番はくじ引きなので、一番を引けば、まだ良いが、三人とも最後の方になってしまった。他の選手はエンジンで目的の場所に直行している。

 我々は初心者で目的の場所も分からず、電動なので移動に時間がかかるのだ。釣れそうな場所は、もうみんな選手で埋まっている。

 仕方なく、誰も居ない場所で勝負することとなった。

 

 結果、この日は三人共ゼロのノーフィッシュ。苦い第一戦となった。

 

 聞くと、他の参加者は数日前にリサーチの釣りをしていて、今釣れる場所と最適のルアーを確認しているのだそうだ。

 情報なしの電動モーターの船では勝負にならないのだ。

 

  第2戦。いきなりコアラ君が脱落。休みとなった。丁度この日「ボキャブラ天国」の復活特番の収録があって重なってしまったのだ。敬太郎君は解散以来マスコミの出演を拒否していたので断ったそうだ。

 プロになるにはアマチュアトーナメントを1年皆勤賞で戦うのが条件。コアラ君は資格消滅となり、2度と参加することはなかった。手作りポンプは一度使っただけでゴミとなった。

 

 我々、二人は一年間闘い続けたが…。二人ともノーフィッシュ。一匹も釣れなかった。実は私は小さいのを一匹だけ釣ったが、小さすぎて水槽のポンプの循環口から逃げてしまったのだ。手作りだから網を張っていなかったのだ。アマチュアには「一番小さい魚」を釣った人にもワーストの賞品が出るので惜しいことをした。確か、スイカが丸ごともらえた筈である。

 

 最終戦を終えて、二人はプロ志望の面接を受けた。私が先で話を聞くと、来年の年間トーナメントの参加費を一括で払うシステムだという。出られない時の返金は無いと言うのだ。「出られる時だけエントリーできませんか?」と聞くと「ダメ」だという。

 しかも、来年のスケジュールはまだ出ていないと言うのだ。これでは、プータローでないと全て出られない可能性がある。土日限定のトーナメントもあるのだが、私は土日は仕事で無理である。

 仕方が無いので、私はプロ入りを拒むことにした。主催者は驚いていたが、損してまでプロになど成りたくないのだ。

 敬太郎君に訳を話してプロを辞めたことを伝えた。すると、その後、面接を終えた敬太郎君が言った「僕もプロになるの辞めました!」。

 驚いた! 私は辞めたが、敬太郎君は社長だし、打ち合わせの日など自分で移動できる。プロを断念する必要はないのだ。

 聞くと、一番下のプロトーナメントは二人で船に乗るそうだ。そこで、私に一緒に乗って欲しかった様だ。知らない人と一緒に乗って戦うのは嫌やだったのだろう。

 それなら、最初に言ってくれれば私も拒否しなかったのに…。

 しかも、敬太郎君は「小林さんが断るから、プロになれなかった」的なことを一切言ったことが無い。あいつは、そういう男なのだ。

 

 敬太郎君は自然の流れに乗った時がベストと考えていた様で、成功する時はトントンと全てが進まないとダメと考えていたようだ。

 

 釣りに行く途中の高速で、敬太郎君の動物的直感、霊感に驚いたことがある。

 いつも、車の運転は敬太郎君がするのだが、ある日、突然「小林さん、運転変わってくれませんか?」と言った。「珍しいね~!体調わるいの?」「いや、なんとなくたまには!」。

 

 サービスエリアに入って運転を交代して、河口湖へと向かった。少し走ると、前方の様子がオカシイ! よく見ると、車が5台ほど大クラッシュして転がっている。これは、即死の大事故である。

 まだ、警察も来ていない。今、ぶつかったばかりだ。右1車線だけあいていたのでゆっくりすり抜けると、私は「はっ!」とした。

 「もし、運転を代わっていなかったら…?」多分、我々がこの事故に巻き込まれて即死していた筈である。サービスエリアに寄ったタイム差が命を救ったのだ。敬太郎君の直感は本物だった。

 

 ちなみに、別の釣りに行く時、もう一度だけ敬太郎君が「運転代わってください」と言ったことがある。その時は、私に代わった直後、速度違反で捕まった。普段、検問など無い普通の道である。やはり、凄い直感だ!